「っ一護!!」 黒衣を纏った橙色が墜ちてくる。
紅い雫と共に。 「…ぅ、あ…!!」 その伸ばされた腕に、掴もうとした存在はいなく。 「っ…!!」
「一護…!!」 それでも未だ手を伸ばすことを止めない少年の身体を、ルキアは必死に抱き締めていた。 思い因らぬ戦場となった境内は、名残のように未だ戦火が舞い上がっていた。
直に騒ぎとなるだろう。 (敵方の補足は出来たのだろうか…) 賊が飛び去っていった虚空をしばし仰いでいたルキアは、視線を倒れている一護に戻した。
意識を失った少年の傷口からはとめどなく生命の雫が溢れている。 (このままでは…っ) 少しでも傷を癒そうとルキアが一護に手を伸ばした刹那、 「朽木さん!!」
「黒崎!!」 聞き覚えのある声に振り向くと、ルキアの顔に驚きと安堵が入り交じる。 「井上!!石田に茶度も…!!」 そこにいたのは一護の友であり、ルキアにとっても関係浅からぬ者たち。
井上織姫、石田雨竜、茶度泰虎だった。 「…っ!!黒崎くん!!?」
「これは…っ」 石田と織姫は傷つき横たわる一護の有様に絶句する。 「‥‥‥何があった?」 荒れた境内を見回した茶度は、唯一事情を知るルキアに問う。
三人の困惑と疑問が入り混じった視線を一身に受けながら、ルキアは目蓋を伏せ拳を握り締めた。 一護の治療のため、ルキアたちは浦原商店を訪れていた。
宛行われた一室で織姫の淡い癒しの光が一護を包み込む。
その様子をルキアたちはじっと見守っていた。 不意に、一護の口元が動く。 「――― ‥‥」 微かな響き。
それでも静まり返っていた室内には波紋のように広がる言葉。 「―――――っ…!!」
「あ、朽木さん?!!」 呟きを聴覚が捉えた途端、何かに耐え切れぬかのようにルキアは部屋を飛び出した。
織姫はルキアが消えた方向を見つめ、眠る一護に視線を落とす。 傷は粗方塞いである。
しかし――― 戸惑い考え込む織姫の肩に手が置かれた。
驚いた織姫が振り返れば、茶度と石田が真っすぐこちらを見つめている。 「井上は朽木を」
「っでも…」
「黒崎なら僕たちが見てるよ」
「茶度くん、石田くん…」 返される力強い視線。
それに応えるように頷くと、織姫はルキアが消えた方角に向かい走りだした。 「一護‥‥‥‥」 分かっていた。 一護は決して己の心を曲げない。
一度護ると決めた対象は、例え何があろうと護り抜こうとする。 己の全てを賭けて――― 「私は‥‥‥っ」 分かっていたのだ、誰よりも。
自分はそんな彼の心に救われたのだから。 分かっていた、はずなのに――― 一人拳を握り締め耐えるルキアの背に、彼女を見つけても織姫はかける言葉が見つからなかった。 ふと過るのは倒れ付す一護と。 『―――茜雫……』 自分の力は彼から与えられた。
それなら、せめて彼の助けとなるようこの力を役立てたかった。
彼は護るためなら己を傷つけることも厭わないから―――。 「黒崎くん…」 茶度と石田は眠る一護を静かに見守っていた。 「せ……な……」 途切れることのないうわ言に、自然と眉間に皴がよる。 きっと目が覚めれば、彼はまた陰謀渦巻く渦中へと飛び込んでいくのだろう。
己が定めた者を護るために――― 「まったく…つくづく君は後ろを振り返らない奴だな、黒崎」 石田が落とした苦言混じりの台詞を、茶度は沈黙を持って返した。 せめて戦いに赴く前の少年の眠りが穏やかであるよう誰もが願う中。 世界はゆっくりと崩壊への幕を上げ始めていた。 改装前の携帯サイトに載せていた劇場版第一弾の文を少し改稿して再アップ。
例え血塗れになっても手を伸ばすことを止めない一護とそんな一護が心配な現世組と自分の立ち位置に苦しむルキア。
当時は一護を空中キャッチしたルキアに萌えた(爆)