「恋次!!貴様一護を見てはおらぬか?!!」






鬼をも逃げ出すであろう形相で詰め寄ってきた幼馴染の台詞は以外なモノだった。






四番隊総合救護詰所の一室。
六番隊副隊長阿散井恋次は、同じく六番隊隊長朽木白哉と共に大量の書類と格闘していた。



五番隊隊長藍染惣右介による反乱から数日、隊長である白哉は未だ傷が癒えず、白哉よりは軽傷であったとはいえ恋次も数日間は動けずじまい。
結果、六番隊では平隊員では処理しきれない重要書類が溢れ返ることとなった。



とはいえこれは護廷十三隊全てにおいて当てはまる状況であり、隊の統括官二人が僅かなりとも動ける六番隊はまだマシな方なのだろう。



「とはいえ…さすがにキツいぜ、コレは…。」


凝り固まった肩を解しつつ、恋次は白哉に聞こえないようぼやいた。
元々デスクワークに向いていない自分にはもはや拷問に近い。


「恋次、これを十番隊に届けてこい」
「あ、はい」


静かな呼びかけに慌てて書類を受け取る。
未だ傷を負っているとは思えないスピードで白哉は書類を裁いていた。
それに感嘆しつつ、恋次は立ち上がる。
と―――――――



「恋次―――――――!!!!!!!!!」
「うぉおおう?!!!ル…ルキ、ア?」



鬼道でもブッ放したかのような勢いでぶち開かれた扉の先にいたのは、肩で息をしつつ凄まじい形相でこちらを睨む朽木ルキアだった。
あまりの迫力に恋次は元より白哉ですら固まっている。


「ど、どうしたってんだよ、一体」
「恋次!!ここに一護が来てはおらぬか?!!!!」
「は…?」


幼馴染の口から出たのは最早馴染みすら感じる人物だった。



現世に生きる身でありながら死神の魂を宿す元旅禍の少年。
恋次に覚悟を植え付け、ルキアを本当の意味で救った者。





死神代行―――黒崎一護





彼もまた騒動最中に敵の凶刃を受け、重傷を負って四番隊に収容されていた筈だ。



「その一護が病室におらぬのだ!!井上のおかげで傷は癒えているそうなのだが…」
「外の空気でも吸いに行ったんじゃねぇのか?傷が治ってんなら、んな目くじら立てなくても…」
「何を言う!!!!危うく胴体を真っ二つにされる所だったのだぞ?!!!それでなくとも幾多の戦闘で心身共に疲労が蓄積されているというのに!!そうだ恋次、貴様も一護を探してこい!!!!」
「はぁ?!!何でオレまで?!!」
「貴様も一護が傷を負うこととなった要因の一人、つべこべ言わずさっさと来ぬか!!!!」
「うぉっ?!ちょ、待てコラ!!うおぉぉぉぉ?!!!!!」



恋次の言い分を綺麗に無視し問答無用で襟首を掴み上げると、ルキアは来た時同様凄まじい勢いで病室を出ていった。


「…………」



そして後には義妹の知られざる一面を目にし硬直から抜け出せない義兄が残されていた。















「まったく…えらい目に合ったぜ…つか、何でオレが…」


結局恋次はルキアに迫力負けし、一護探索に付き合わされていた。
聞けばルキアの他に井上や石田といった一護と共に旅禍として尸魂界に来た者たちも躍起になって探しているという。


「まぁ、霊圧がまったく感じられねぇんじゃ心配にもなるか」


一護の霊圧は独特だ。
そして常に垂れ流し状態であるため、ある程度意識すればその存在を見つけるのは容易い。

が、何故か今はその存在を感じることが出来ずにいた。

瞬歩を使いながら屋根伝いに駆けていた恋次はある場所に目がいき、足を止める。


「…ひょっとして…」


僅かに引っかかるモノを感じ、恋次は再び瞬歩で駆けた。










「こんなトコにいやがったのか」


恋次が向かった先は双極の丘だった。
最も先の戦いの爪痕を残す場所―――
ソコに探していた橙色の色彩がいた。


「恋次…?何でここにいるんだ?」
「ルキアに引っ張り出されたんだよ。テメェ、出かけるなら一声かけて行きやがれ」


頭を掻きつつ溜息を吐く恋次に対し、一護も苦笑を漏らす。


「悪かったな」
「別にいいけどな。それよりお前はなんで霊圧消えてんだよ」
「卯ノ花さんに渡されたんだ。いっつも霊圧垂れ流しじゃ治りが遅れるからって」


言いつつ上げられた一護の右手首には特殊な腕輪が装着されており、それを見た恋次は目を細める。


「…まだ悪いのか」
「いや?一応許可が出るまで着けてるだけだ。傷自体はもう何ともねぇよ」
「………」


穏やかな風に撫でられる一護の横顔を恋次は黙って見ていた。





確かに傷自体は治っているのだろう。



だが、それ以上に―――――




「…ったくよぉ」

大きく息を吐き、恋次は座っている一護の隣に腰掛けると鮮やかな色彩を放つ頭を無遠慮に掻き回す。


「うぉ?!テメェ、いきなり何しやがる!!」
「ルキアたちが躍起になって探す理由が分かった気がするぜ」


訳が分からないとばかりに眉を寄せる少年に、彼より遥かに年嵩な死神は苦笑を漏らす。



不変だった世界に革命を引き起こした一陣の風はまだ年端もいかない子供なのだと改めて思い知った。



(バカでけぇ力抱えてるくせに、どこか危なっかしいんだよなぁ…)




だからほっとけないのだ、自分の幼馴染も、少年の友という名の仲間たちも。
自分だって何だかんだ言ってこの少年を存外気に入っているのだから―――




「…恋次?」


訝しみを含んだ声音に視線を降ろせば、若干困惑を含んだ琥珀色の瞳とぶつかった。
それに更に口元を緩め、言葉を発しようとした瞬間、




「一護―――――!!!!!!」




どでかい衝撃と共に恋次の身体はふッ飛んだ。


「…ルキア…?」


呆然と発せられた声音にルキアは勢いよく一護に振り返る。


「貴様、こんな所で何をしているだ!!!!傷に触るではないか!!!!」
「いや、つか恋次…」
「まったく霊圧は欠片も感じられぬし、何かあったのかと心身共に削られる思いだったのだぞ?!!ただでさえ貴様も猪突猛進なのだからな!!」
「や…えっと…」
「まぁよい。こうして無事見つかったのだからな。さっさと戻るぞ。井上たちも心配している」
「…ルキア…」
「む、恋次、貴様何故そんな所で寝ている?大体一護を探せと私は言ったではないか!!」
「…テメェが蹴り倒したんだろうが、ゴルァァァ!!!!」



登場と共に盛大な蹴りをかましてくれたルキアに恋次はこめかみを引き攣らせながら吼えた。
そのまま凄まじい言い合いを繰り広げる死神二人を一護はまじまじと見据え、


「…仲良いんだなぁ」


何とも的外れな言葉は幸い二人に届くことはなかった。








携帯サイト時代に元相互サイト様に差し上げたブツ。