少し風が強いかもしれない。



揺れるカーテンを尻目にルキアは開いていた窓を僅かに閉めた。
そして向けた視線の先には鮮やかな橙色の少年が横たわっている。
眠りの淵でも健在な眉間の皴に思わず苦笑した。



尸魂界全土を揺るがした事件より早数日。
些か落ち着きを取り戻した護廷は動ける者中心に通常任務に勤めている。


思えば凄まじい騒動だった。
隊長格数名までも重度の傷を負わせ、護廷自体も半壊。
己の極刑で全てが終わると思いきや突如姿を現した黒幕。
そこでルキアは一旦思考を止める。
気付けば両の拳を力の限り握り閉めていた。
小さく息を吐き再度目線を眠り続ける少年に向ける。




黒崎一護。




たった二月ほどの付き合いの自分のために旅禍としてこの世界に乗り込んできた人間。
幾人もの猛者を退け全ての企みを表に引きずりだす原因を作った者。
そしてそのために数え切れない傷を受けた――――



今回の騒動で一番の重症だったのはおそらく彼だろう。
背骨で辛うじて繋がっていた彼の身体は四番隊の上級救護班でも手に余る傷だった。
同じく旅禍として同行してきたかつての級友以外は。
少年と同い年の少女――井上織姫はその稀有な能力で一護の傷を癒した。
さすがに精神力を使ったせいか最後は彼女を含めた旅禍の全員が四番隊の世話になっていたが。

一護は未だ昏々と眠り続けている。
最後に負った傷の分を差し引いても彼が蓄積してきた負担は明白で、死ななかったのが不思議なくらいだと四番隊隊長の女性は語った。



「まったく貴様というヤツは・・・いらぬ心配ばかりかけおって」



目が覚めたらまずは一発食らわしてやろう。
そして――――


眠り続ける少年を見守る死神の表情は終始穏やかなままだった。