狭い隙間から僅かに覗く蒼を一護はずっと見ていた。
どこまでも不変に思える空は残酷な程、まっさらで。
それを心に焼き付けるかの如く、一護は見続けていた。 尸魂界、殲罪宮・四深牢。
全てが殺気石で覆われた牢獄で刻一刻と削られる刻のままに、囚人はただじっと終わりを待つ。 霊王の命を狙い、果てはこの世界の在り方そのものを滅却せんとした藍染一派との闘いは熾烈を極めた。
その死闘の末、全てを打破した後……一護は尸魂界に連行された。 当然の処置だと思う。 常に死と隣り合わせの闘いを繰り返す中、一護の力は誰の手も届かない領域へと覚醒を遂げた。
現世に生きる人間の身でありながら死神の力を宿し、更に虚の力まで自在に操るに至り、遂には崩玉を従えた藍染すら圧倒する霊圧を身に付けた。 人は総じて、異質なモノを嫌悪する。 目先の脅威が消えた今、世の理を統べることを自負している尸魂界にとって一護は危険因子以外の何者でもなかったのだろう。
刑軍及び鬼道衆と思われる部隊が現れた時、一護は一切抵抗しなかった。 事態を心のどこかで既に想定していたせいでもある。
だが、何より一護が危惧したのは膨張し続ける自らの力の行き着く先だった。 一護とて、むざむざ己の命を捨てたいと思ってはいない。
かつて、自分にとって世界の中心とも言えた人が自らの命とと引き換えに護ってくれたモノだから。 けれど、天秤に賭けられたモノはそんな一護の命全てを使っても足りないくらい大切で。 この身に力を宿したのは、そんな大切なモノたちを護るため。
そのための力が逆に全てを壊しかねないのなら――― 一護に迷いはなかった。 ――これでいい―― 何度も繰り返した問答を心に留めおき、一護は静かに目を閉じる。 刹那――― 「破道の六十三、双蓮蒼火墜!!」 ドゴオォォォォ!!!!! 「?!!!!」 凄まじい霊力の蒼炎が殺気石で出来ているはずの壁を轟音と共にぶち破った。 驚きで言葉を失っている一護の前に人影が躍り出る。
それは――― 「ルキ…ア…」 己にとっても最も縁深い死神が一護を見下ろしていた。 「お前、何で…」 呆然と立ちすくむ一護の前に死神―――ルキアは歩み寄ると―――勢いよく拳を繰り出した。 ボグッ!! 「でっ?!!!」 これでもかというくらい顎に来た衝撃に、一護は一瞬意識を飛ばしかける。 「っ〜……!!!何しやがる!!!」
「こちらの台詞だ、このたわけ!!!!」 涙目で反論する一護を、しかしルキアはそれ以上の気迫で持って黙らせた。 「何故のうのうと死を受け入れている?!!何故貴様が死ぬ必要がある?!!そもそも、お前は理不尽な状況に黙って指を加えているような男ではないはずだ!!」 激昂するルキアに一護は瞠目し、そして俯いた。 「……仕方ねぇだろ。これが一番、確実な方法なんだ」 一護自身に世界を害そうという気はこれっぽっちもあるはずがない。
それでも…このまま、己が全てを壊してしまう可能性があるのなら――― 「俺は護るために死神になった。だから…!!」 「ならばこれからも護れば良い」 俯いていた一護は、凛とした声に顔を上げる。
ルキアは真っ直ぐな目で、一護を見つめていた。 「己の力が恐ろしいなら、それに負けぬ強い精神を持てば良い。沸き起こる力を押さえることが出来ないと言うなら、それを封じる為の術を身に付ければ良い。内なる虚を屈伏させ藍染すら凌駕したお前に、その程度の事が出来ないはずがなかろう」
「ルキア…」
「貴様はそうやって強くなってきたではないか。一護、お前は私に言ってくれた。『ルキアのおかげで世界が変わった』と。……同じなのだ、私も。お前に出会ったおかげで私はそれまでの自分になかったモノに気付けた。お前が私の世界を変えてくれた。その貴様自身を否定することは誰であろうと私が許さぬ!!」 気付けば一護はルキアに抱きしめられていた。
自分より小柄なはずの身体が、誰よりも頼もしく思えるのは気のせいだろうか。 「さぁ、帰るぞ。皆お前の帰りを待っている」 力強い言霊が一護の心に染み渡る。
ルキアの肩口に顔を埋め、一護は熱くなった目頭を誤魔化す様にきつく閉じた。 「いつも強引すぎるだろ…お前…」 精一杯の悪態をつく少年の身体を抱きしめながら、ルキアは微笑んでいた。
以前メル友さんに送り付けた『囚われの一護を助けるルキア姐さん(漢前度五割り増し/当社比)』です。 BGMはD-tecnoLifeもしくは一輪の花で← 当家のルキアは、一護のためなら殺気石すら吹き飛ばす気概の持ち主です(爆) 原作の進行を踏まえて若干修正入れました。新章の展開まるっと無視してますが← いっそ地獄勢も入れようかと思いましたが、ここは敢えてルキア姐さんオンリーで。