※未成年の飲酒描写がありますが、あくまで創作上の表現です。
法律を破る事等を推奨している訳では決してないのでご了承下さい。 「一護、こんな所に居たのか」
「ルキア」 一人静かに縁側に腰掛けていた少年を見つけ、ルキアは笑みを零した。
そのまま自然な動作で隣に座ると、少年――― 一護も困ったように笑う。 「あのまま絡まれてるのもなぁ…」
「ああ……」 二人の後方では宴会を通り越して飲み比べ大会でも始まりそうな騒ぎが起こっていた。
実際、酒豪な某十番隊副隊長に潰されたのであろう、三・六・九番各隊の副隊長たちの屍が床に転がっている。 こうなっては最早無礼講も同然だろう……酒が本格的に入る前から礼節も何も無いような状態ではあったが。 視界に入ってしまった光景を敢えて黙殺し、一護とルキアは再び前に向き直った。 そもそもの事の発端は一護が尸魂界における忘年会に強制参加させられた事による。
一護は死神代行ではあるものの、あくまで現世で生きる人間。
故に断ろうとはしたのだが「有事の際に悉く関わっているのだから最早身内同然」と迎えに来たルキアと、何故か同行していた六番隊隊長の白哉に言い含められた。
……ルキアはともかく何故白哉。 後で聞けば、六杖光牢を使ってでも一護を尸魂界に連れていく腹積もりだったらしい。
よりにもよって…と一護はルキアの人選に呆れていたが、内心白哉も一護の事を憎からず思っている事を本人だけが気付いていない。 そんな小さな諍いがあったものの最終的には一護も承諾し、かくしてとある料亭を貸し切っての護廷十三隊主催の忘年会が執り行われた。 隊の何処にも所属していない一護は隅で適当に過ごそうとしていたものの、何故か挙って隊長格連中に構われた。
総隊長である山本の酌までやらされてしまい、一護的にはかなりいたたまれない(総隊長本人は至極嬉しそうであったが)
その後の流れでしこたま飲まされもしたが、どうにか隙を見て抜け出し今に至る。 「貴様が酒に強い性質だったのが幸いしたな」
「まったくだぜ……今だけは親父に感謝だな」 死神連中ではルキアのみが知っていた事実だが、一護は存外酒に強かった。
それというのも、父親である一心の晩酌に事ある毎に付き合わされていたおかげだろう。 「絡み酒ほど性質が悪いもんはねえからな。酒豪になれとは言わねえから、せめてある程度の耐性は付けとけ」 医者を営む身でアルコールを勧めるのもどうなんだと思いはしたが、今となっては忠告を呑んで良かったと実感出来る。 ……案外、本人の実体験によるのかもしれない(なんせ父親も元死神) 料亭の整えられた庭を眺めながらぼやく一護の様子に、ルキアは思わず笑みを零す。
宴の席でこうしてこの少年の近くで共に過ごせるのだ、実に喜ばしい。 「やれやれ…静かなのはここだけか」
「失礼する」 不意に近づいた二つの声音に振り返り、一護とルキアは揃って目を丸くした。 「兄さま、それに日番谷隊長も」
「お前ら、こっち来ていいのか?」 宴の最中とはいえ二人とも隊長に就いているのだ、同僚やら部下やらとの付き合いもあるだろうに。
そんな一護の気遣いに、何故か当人たちが揃って溜息を吐いた。 「お前……あれを見ても同じ事が言えるか?」 心底げんなりしている日番谷の言葉に首を傾げ、一護は彼の示す方角を振り返り。 「………ああ、うん。俺が悪かった」 即効で顔を背けた。 どうやら酒豪どもによる飲み比べが勃発したらしい。
……最早修羅場であった。 日番谷も白哉も酒に弱い訳ではないが、あんな暴風雨のような騒動の中に居るのはごめんだろう。
一護とて頼まれても全力で拒否する事請け合いだ。 「う〜ん……なら、ここで飲み直してくか?」 一護はそう言って傍に置いていた徳利を持ち上げる。
一息入れた後、月を見つつ杯を傾けようと何本か失敬していたものだ。 「つまみもあるぞ、一護」
「……お前もちゃっかりしてるな、ルキア」 初めからそのつもりだったのだろう、幾つかのつまみが乗った膳を示すルキアに日番谷と白哉も自然口角を緩める。 「ならば黒崎、一つ酌を頼もう」
「へいへい。つか考えてみたら俺が白哉に酌ってすごい光景だよな…」 澄ました顔で杯を差し出す白哉に一護は溜息を吐きつつ、丁寧に酌をしていく。
考える事は皆同じだと、その光景を見ていた日番谷とルキアは揃って肩を竦め、笑いながら後に続いた。 「黒崎、俺にも頼む」
「当然私にもだ、一護」
「俺は給仕か…」 文句を言いつつ全員に丁寧な酌をする少年の律儀さに、やはり皆は柔らかな笑みを零すのだった。