突如尸魂界を襲った嵐のような騒乱から幾数日。
自身の負った傷も癒え、通常通り業務をこなしていた十番隊隊長―――日番谷冬獅郎は、突如現れた己の副官に執務室から追い出されていた。 いわく、
『病み上がりにそんな頑張らなくても大丈夫ですって〜。休憩がてら散歩でも行ってきてくださいv』 少々サボり癖のある副官に後はまかせろと言われ不安に刈られたものの、久しぶりの事務処理に身体が疲労していたのも事実。
軽く身体を解しながら歩いていると己が四番隊の近くにいることに気付いた。 途端、脳裏に未だ目覚めぬ幼馴染みの顔が浮かび、知らず眉間に皴が寄る。 (‥‥顔を見ていくか) 心なし重くなった足取りで総合救護詰所に向かっていると、ふと前方に人影が見えた。 (あれは…) 遠目からでもわかる目立つ容姿。
もはやこの瀞霊廷内で知らぬ者などいない。 「……黒崎一護…?」
「ん?」 そこにいたのは元旅禍の死神代行―――黒崎一護だった。 「…動いて大丈夫なのか。相当の深手を負ったと聞いていたが」
「アンタ…え〜と…」 必死に何かを思い出そうとする一護に、冬獅郎は自分たちに面識がないことに気付く。 「護廷十三隊・十番隊隊長の日番谷冬獅郎だ」
「十番隊…」
しばし目線が宙を泳いだあと、一護は思い出したように頷いた。 「乱菊さんとこか」 親しげな響きに、今度は冬獅郎が首を傾げた。
今回の騒動で十番隊は旅禍と直接接触してはいなかったはずだ。
問い掛ける視線に、一護は苦笑しながら答える。 「よく隊長の見舞いのついでとか言って、会ってたからさ」
「‥‥‥それでか」 冬獅郎の額に青筋が浮かんだ。
本日隊舎に出勤した際、うず高く積もっていた未処理の書類。
見舞いと称しているが、大方八割はサボりの口実だろう。 「てゆうか、そっちこそ動いて平気なのかよ?乱菊さんから聞いたけど結構ひどい傷だったんだろう?」
「…お前程ではないさ」 確かに冬獅郎も深手を負っていた。
しかし一護が受けた傷はそれを多いに上回るものだったと聞いている。 (たいした生命力だ…) 霊体の生命力の強さは即ち霊力の強さ。
それだけで一護の潜在能力の高さを十分物語っていた。
目を細めて一護を見ていた冬獅郎はある事に気付く。 「…その花は?」 一護の両手には幾つかの花が抱えられていた。
問われた一護はにこやかに答える。 「白哉の所に見舞い行こうと思ってさ」
「白哉…朽木隊長の事か?」
「そ。あいつまだ治るのに時間かかるらしいし…男が花なんて似合わねぇけど」 そう言って頭を掻く。
それでも、一護の持つ鮮やかな橙色の髪に多彩な色を持つ花たちは映えていると冬獅郎は思った。 「…黒崎」
「ん?」
「一本貰っていいか?」 花を指差す冬獅郎に一瞬目を見開いた後、一護は快く花を差し出した。 「アンタも誰かの見舞いか?」
「…まぁそんなとこだ」 差し出した花の束から一本引き抜く。
それは綺麗な橙色の花弁だった。
心なしかどの花たちよりも生き生きとしているように見えて、冬獅郎は小さく笑う。 「んじゃ、俺はそろそろ行くな」
「ああ」
「またな、冬獅郎!!」 そう言って笑う一護は花などよりずっと鮮やかで。
冬獅朗は目を見開いて固まった。
そうしている内に一護の背中は遠ざかり。
残された冬獅郎は、 「…日番谷隊長だ」 今はもう見えぬ橙色に呟いた。
大分前に書いて携帯サイトに上げたヤツPart2(爆) 日番谷と一護の出会い模造、みたいな。 個人的に花を抱えた一護が好きだったりします。