油断していたつもりなどないが―――それでも気が急いていたのは否めない。 さながら深淵へと誘い込まれそうな深く暗い闇へと下っていく階段で、うっかり一護は足を滑らせた。
その場の光源が、並び立つ灯篭のようなものが発する淡い灯火のみだった事も災いしたのかもしれない。 とは言え、こんな所で足元不注意など笑えない。
強かに打ち付けた腰を押さえつつ顔を上げて、 おもむろに差し出された拳に、面食らった。 会って間もない――――何を考えているのか、読めない男。
それが、一護が現在目の前にいる男に対して抱いている印象だ。
はっきりしているのは、この男が一護がこの底知れぬ瘴気と闇が溢れる地―――『地獄』に来た原因を作った者たちと同じ、『咎人』と呼ばれる存在であるという事実。
一護と行動を共にしているのは、同じ咎人であるにも関わらず一連の騒動を起こした者たちが「気に食わない」から。 そして――― かつて、生きている時に妹を何らかの要因で失った……『兄』なのだと。 「大丈夫か?」
「……ああ、わりい」 死人である故か、触れた拳から熱は感じられなかった。
だからというわけではないが……やはり一護には男―――コクトーの事が、読めないままだった。 妙な所で抜けている子供だと思う。
誰よりも強大な力を秘めているクセに、ふとした瞬間に瞳が揺れる。 この『地獄』という監獄ではその甘さこそ命取りだというのに。 「だってのに…・・・なーんで俺は手を差し出してんだか」 まるで、弟に手を貸す兄のように。 「くだらねえ……」 己の身の内にあるのは<怨念>と自由への<渇望>のみ。
だからこそ、この子供を案内しているのだ。 願いを、叶えるために。 「コクトー…?」
「―――急ぐぜ、一護」
「……ああ」 響く足音。
揺れる灯火。
闇色だけが、唯一変わらずそこに在った。
理解不能
転がる石に止まりようもなく
以前日記に上げた物。 劇場版第4弾を観て即効書き上げました。 この後の展開を知っているからこそ、このシーンは色々考えさせられるわけで…。 多分、一護は最後までコクトーとの距離を測りかねてた気がするんです。 コクトーはコクトーで、あの手を差し出したシーンは演技とかではなく、素だったんではないかと。 とゆうか、飄々とした気質もコクトーの本質であって、決して全てが偽りではないと思ってます。 まあ、この話で一番書きたかったのは階段でこける一護だったんですが← あれは…萌えるしかないだろう…。