「一兄遅ーーーい!!」
「お兄ちゃん!!はーやーくー!!」
「だからそう急くなって!!転んだらどうすんだ!!」
元旦の商店街の静寂を壊すように、一人の兄と二人の妹が駆けて往く。
妹の顔には終始笑みが浮かんでいる。
その実に楽しそうな表情に兄は内心微笑ましく思いながら、走って転びやしないか心配しているようで。
そんな仲睦まじい兄妹の様子を、とある人物たちが穏やかな気持ちで見守っていた。 「……楽しそうだな」 蒼穹の広がる摩天楼の群れの一つ。
聳え立つビルの先端にあるポールに立ち、斬月は主の心の内を読み取り薄く口角を上げた。
一護の心そのものと言っても過言ではないこの精神世界に、穏やかで優しい風が吹く。
即ち、一護の心が安らいでいる証拠だ。 「家族と過ごせる絶好の機会だ。当然だろう」
「今日はまだ小五月蝿ぇ連中にも会ってねぇしなぁ」 声のした方向に斬月が視線をやれば、白と黒の対照的な色彩が見えた。
黒衣の少年―――天鎖斬月は曇り無く広がる蒼天を満足そうに見て頷き、白い衣を着た一護と瓜二つの容姿を持つ男―――内なる虚はいつも通りの軽薄な笑みを浮かべながらもその声音はどこか優しい。 斬月もまた敢えて何も言葉を残さず、蒼天に視線を戻した。 口に出さずとも全員が知っているのだ。
一護が―――自分たちの主たる少年がどれ程家族に親愛の情を寄せているかを。
そしてまた、一護の家族たちも彼の人にありったけの心を寄せている事を。 大好きな兄と共に出掛ける事が、一護の妹たちは嬉しくて仕方ないのだろう。
だから逸る気持ちを抑えられず、足を止める事が出来ずにいる。
一護もまた、そんな妹たちを無意識に甘やかしているのだろう。 「あの煩い父親はいないようだな」
「どうせ留守番押し付けられたんだろ。いいじゃねえか、帰ったらまた無理矢理絡んでくるだろうし」
「……そして下の妹に沈められる、か」
「いつものパターンだ。あの親父も何だかんだで一護に構って欲しいんだろうよ、やり方うぜぇけど」
「………」 一護は家族に愛されている。
母親を失った罪悪感をまだ心の何処かで抱えている彼を包み込むように。 無くしたくないのは、同じ気持ちなのだと。 「今日くらいは何も考えず、穏やかに過ごすがいい……」 日々戦い続ける君に一息の安らぎを。
愛する家族を映すその瞳の優しさを自分たちは知っているのだから。
あの瞳に映れることのなんたる歓喜
だから何時までも傍に居たいのだと
正月特番のアニ鰤より。 黒崎兄妹が好きすぎる…!! 精神世界の住人たちは一護が嬉しければ自分たちも穏やかな気持ちになれるんです。