迷いのない背中。
土埃を上げながら遠ざかっていく紅い背を見送りながら佐助はそっと嘆息した。


「まーったく、忍使いが荒いにも程があるっての」


手にしていた甲賀手裏剣を軽く振ると、矢の残骸がパラパラと零れ落ちていく。
隣に佇んでその様子を見ていた男は鼻を鳴らした。


「ふん、涼しい顔で全て叩き落しておきながらよく言う」
「そりゃ、仕事はきっちりこなすのが忍の矜持だし?おたくこそ人の事言えなくない?」
「正宗さまの背をお守りする。それが俺の役目であり、誇りだ」


そう言って抜き身のままだった刀を納める男の視線の先には、蒼い背中が今も見えているのだろう。



「誇り…ね。さすがは竜の右目だ」



茶化すような物言いに男―――小十郎は目を細める。
忍の長を務めながらも堂々とした態度を崩さない男は、遠くを見据えながら笑っていた。



「……てめぇは何のためにあの男の背を守る」



問いかけは荒れた大地に溶けることなく佐助の耳に届いた。
その言葉に忍の口角がさらに上がる。



「真田の旦那は俺に背を預けてるわけじゃないよ」



天覇絶槍。虎の若子。紅蓮の鬼。
この世に生を受けてからまだ十数年しか経ていない主には、既にいくつもの畏怖を込めた名が付けられている。
それほど彼の人が戦う様は壮絶で苛烈な何かを剥き出しにしていた。


「一見闇雲に突っ込んでいるように見えるけどね…あの人が操る二槍に隙はほとんどないんだよ。前後左右どこからあの人を捕らえようとも、気づけば一刀のもとに斬り捨てられる。戦に対するあの人の研ぎ澄まされた感覚は、ある意味武田の大将以上かもな」
「………。」
「だから旦那は周りを対して気にしていない。…行く手を阻む輩は、ただ斬り捨てるのみ」


そこで佐助は一旦言葉を切り、改めて告げた。




「そんな旦那を近くで見たいと思ったら、斜め後ろが一番良い」




小十郎は視線を佐助に流す。
対する佐助は、今はもう遥か彼方へ駆け抜けた背を捜すように遠くを見据えたまま。


「どんな屈強な兵士も、ゾっとするような血飛沫も…全てを包み込み、逃さず焼き尽くす…後に残るのは、消える事のない紅蓮の炎のみ」



それはどんなに煌びやかな屏風絵も及ばぬ、戦場に咲き誇る美しいとも言える朱の絵画。



「…それは忍の性か?」
「まさか。…俺様だけが感じる高揚だよ」



ただ前を見据え、ひた走る。
眩しいくらいの潔い生き方。
この乱世にあってそれがどれほど貴重であるか、忍である自分は熟知している。



「大将にだって譲る気は毛頭ない。旦那の傍で、旦那の戦う様を見届ける。…もちろん、無粋な輩には旦那が手を下すまでもなく、俺様がご退場願うけどね」


低く嗤う忍の様に、小十郎はそっと嘆息する。


「忍が抱くには大層な忠義だ」
「あの人と共に在るならば、そのくらいじゃないと勤まらないんでね」



そう言って笑う忍の声は、至極楽しげな響きがあった。





以前日記に上げた、BHのOPからインスピレーションを受けた初BASARA小説。
私と佐助がどんだけ幸村リスペクトしてるかっていう話(え