何気なく流していたニュース。
誰もが思わず目に留めてしまったのは、やはりその鮮やかさゆえだったのかもしれない。


「わあ、いつ見ても鮮やかよねえ」
「……確かに見事なもんだ」


今や家族も同然な神主親子の声を聞きつつ、千馗もまたその緋色をブラウン管越しに見つめていた。







「随分と熱心に見ていやしたね」



まだ日も高いうち、ぼんやりと境内を眺めていた千馗は、不意に耳に届いた声音に顔を上げた。
音も無く佇み煙管をふかす狐の神使の姿を認め、一つ目蓋を瞬かせる。



「……そう見えました?」
「ええ。こいぬちゃんが首を傾げ、白殿が眉間に皺を寄せるくらいには」


ああ、雉明殿も不思議そうにしていやしたね、と。
告げられた内容に千馗は虚を突かれたようだった。
どうやら相当呆けていたらしい。
神使二人はともかく、札の番人二人にも目撃されていようとは。



「何と言うか、まあ……目についてしまうんです。あの色とか、視線が合えば圧倒的な存在感を感じさせる所とか」
「確かに……あんな風に寄り集まった曼珠沙華は見物かもしれませんね」



脳裏に浮かぶのは燃えるように集まって咲き誇る華たち。
映像だけであれだけ感銘を受けるなら、実際に目にした時などさらに目に焼き付いてくるのではないかと。



「鍵さんは、あれを”曼珠沙華”と呼ぶんですね」
「おや、坊は違うんですかい?」
「オレは……”彼岸花”の方がしっくりくるかなあ」



曼珠沙華、彼岸花―――幽霊花や、はては死人花など。

かの花には様々な異名がある。
だが、それにも共通する所があるとすれば―――。



「敢えて言えば―――”死”を連想させるものが多い」
「………」
「不吉だと忌む場合もありますけど、逆に”天上の花”なんて称される事もある。……ひょっとしたら、」




彼の岸に行った時、最初に迎えてくれるのはあの花なのではないかと。
美しくもどこか畏怖を感じさせる華。
その燃え盛る緋色で、渡って来た者を絶望に染めるのかもしれない。
あるいは、圧巻する程に美しき紅を前に、感涙の膝を着かせるのかもしれない。



「そう考えると……彼岸の世というのも、なかなか趣き深いのではないのかなと」
「……坊はなかなかに風流なお人ですねえ」
「はは。まあ、全部オレの想像ですから」



穏やかに笑ってみせる千馗の横顔を、鍵は瞳を細め見ていた。



ひょっとしたら。
先程、彼が語った情景は秘法たる瞳を持つ彼が本当に目の当たりにした世界なのか、と。


そんな考えを、やおら頭を振って打ち消す。




”死”とは、生きとし生けるモノ全てに訪れる事象。
神使である鍵は、その多くを見守ってきた。
それはこれからも変わらない。
分かっては、いるのだけれど―――




(少なくとも―――今はまだ、坊の口から”彼岸の世”の言霊は出て欲しくないんですよ)


それはきっと、自分だけの願望ではないはずだと。



「鍵さん……?どうかしましたか?」
「いや、何でもありやせん」



例え、いつかは終る逢瀬でも。
今しばらくは、この人の生を共に。
そっと心の中で、彼岸に咲く華に祈る。




はりのはなし




遅ければ遅いほど、よいのだと