あれは、何時の事だったか。
多分、自分の”眼”が常人とは違うものを視ているのだと、自覚し始めた直後だったような気がする。 微かな陽光が入るだけの、鬱葱とした森だった。
大人でも、入る事に躊躇してしまうだろう。 けれど、己は其処へ、自身の意思で向かっていた。
深入りはしなかった。
自分のような例え”視えるだけ”の童でも、”彼ら”にとっては十分な獲物となるのだと、教わっていたから。
それでもつい向かってしまうのは、何故だったのか。
今となっては、よく思い出せない。 「おや……これは珍しい”眼”を持った童だな」 ”ソレ”に逢ったのは、ほんの偶然だった。
いつものように森の入り口を何とはなしに視ていたら、聞き慣れない声がした。
「ふむ……驚かないか」 「…ヒトではないモノを視たのは初めてじゃない。貴方のようなモノは…初めてかもしれないけど」
己の返答は彼の気に入るものだったようで。 クツクツと哂い声が辺りに響いた。
「なるほど…。お前さん、将来大物になれそうだ」 「………」どう返すべきか逡巡していると、目の前に何かを翳された。 反射的に見返すと、それは薄闇の中でも不思議な光を発していた。 とまどう己に彼は笑う。
「安心しな。コレはお前さんに危害を加えるようなもんじゃない」
言われたとおり、嫌なモノは視えなかった。 そっと手を伸ばして受け取る。
「どうだ?」 「…不思議な感じ」 「そうか。まぁ、お守り代わりだと思って持っておくといい」 「…どうして、オレに…?」
純粋な問い掛けだった。 彼はただ、笑っていた。
「きっと、お前さんは色々なモンを視る事になるんだろう。ソイツはいざという時、お前さんを助けてくれるかもしれん。…とは言え、最終的に決めるのはお前さん自身だ」
大きな手が己の頭に乗せられる。 クシャリと、撫でられたのが分かった。
「お前さんに”秘法”の加護があらんことを」
顔が良く見えなかったのにも関わらず、彼が優しげに口元を緩ませていた事が、ひどく印象に残っていた。