「ほら静かにしろー。毎度恒例、代打担任が来てやったぞー」 注意の割には気怠さが際立つ声を立ち聞きながら、千馗は教卓横で息づいた。 潜入という、十数年過ごしてきた人生で初めての行動。
何分勝手が分からないので、どうなるかは分からないが (あまり目立つような行動は、しない方がいいんだろうな) 先程、上司から届いたメール内容を思い浮かべる。 任務はこの學園内、もしくはその近辺に潜伏していると思われるカミフダの回収。
しかも、ソレは一枚だけとは限らないという。 (武器は……試験の時に使ったヤツを譲って貰えたから、それでいい。情報は……地道に足を使うしかないだろうな) 極力戦闘は避けろとのお達しだが……カミフダがあり、その影響を受けたであろう隠人が周りにいる限り、それは不可能に近いだろう (下手に騒ぎを起こして、牧村先生に睨まれないようにしないとな) 年表音読はともかく、未来予想図はさすがに御免被りたい。
なんせ昨日、既に人生の転機とも言える出来事に遭遇しているのだから。
この上で己の未来の予測など、今の自分の心情では荷が重過ぎる。 そんな事を胸の内で苦笑しつつ、千馗は改めて前に居直った。
………目立たないのは、無理があるかもしれないな
予想以上に、前途は多難でありそうだった。
何だかんだで席も決まり、そろそろHRも終ろうかと言う時。
(―――何だ……?)
何やら廊下側から慌ただしい足音が聞こえてくる。 徐々に近づいてきたソレは教室の前で一旦止まり、「お、お、おッ、おはようッ!!」
心底狼狽した声と表情でもって、その正体を晒してくれた。
(……職員室で牧村先生がぼやいてたのと、教室に入ってすぐ交わされてた会話の正体は、コレか……)
その件の教師と牧村女史による、一種の漫才めいたやり取りを千馗は呆然と眺めているしかなく。
「はぁ……―――って、そうだッ!!七代千馗君!!」 「えッ……あ、はい!?」
人が悪そうな不敵な笑みと共に去って行った代打担任の攻撃から唐突に復活したらしい、皆曰く”遅刻魔の担任”の叫びにより、千馗の意識は一気に現実へと戻された。「転校初日だっていうのに、ごめんなさいね。私が担任の羽鳥朝子です。現代国語を担当しているわ。卒業までわずかな間だけど、よろしくね」 「いえ、こちらこそ。短い間ですが、お世話になります」 「ええ。卒業まで一緒に頑張りましょうね」
穏やかなやり取り。 初日の挨拶としては、問題ないと思う。
指定された席に着き、改めて担任の話に耳を傾けた時、
「まず初めに……もう知ってる人もいるかもしれないけど、昨日の放課後、テニス部の二年生が校舎裏で怪我をしました」 「―――!!」
きた。 直感的に、そう思う。
「直接の原因は転んだ事だそうですが、以前から校舎裏では怪しい人影を見たなどの報告を受けています。原因がはっきりするまで、校舎裏には近寄らないようにしてください」 「………」
校舎裏、か……。
どうやら、情報集めに駆けずり回る間もないようだ。