人々の喧騒が視界を次々と流れていく
それに伴うように、常人の目には映るはずのない”氣の流れ”が視えた。 一人静かにその不規則なようで規則的な様を眺めながら、千馗は新宿の街を歩いていた。 「さすがは人のるつぼ、新宿……こうも数が多いと、思念の色もまさに十人十色だな……」 視えた人の考えそのものが分かる訳ではない。
ただ、感情が色を伴って視覚化されたとでも言うべきなのか……この”眼”には、まるで棚引く帯のようなモノが視えるのだ。
それが寄り集まい、まるで大きな川を視ているのようにも思える光景。
「―――っと、今はのんびりしてる場合じゃなかった」
眼を閉じて、胸に手を当て一呼吸。 何か思考する時、千馗はいつもこうして反復していた。
ゆっくりと、これまでの行動を振り返る。
學園からの帰り、上司からメールを介して紹介された滞在場所―――まさか神社だとは思わなかった。それも二人の神使就きで―――へ挨拶に行き。 異様にハイテンションなインド人が経営しているカレー屋で、役立ちそうな道具の売買を持ちかけられ、交渉成立し。 ついで、いい感じに武器として使えそうな文房具等を取り揃えた玩具屋を発見し。 締めに、これまた上司から紹介された喫茶店と言う名の依頼仲介所へ足を運んだ。「どれくらい必要になるか分からないけれど……なるべく定期的に受けるようにした方がいいだろうな」
調査費用が一切上から降りないという、ある意味衝撃的な封札師の内部事情に些か面食らいはしたが。 どれくらいの期間ここにいる事になるか分からない以上、伝手があるなら稼げる時に稼いでおいた方がいい。
思考を中断し、携帯を取り出す。 試しにと引き受けた依頼内容を改めて確認し、そのまま閉じた。
そして再び思考する先にあるのは、放課後に學園で見た光景。
(焼却炉で見たあの”白いモノ”……あれは、隠人じゃなかった)
樹海の洞窟で視た隠人たちは擬似とは言えもっと荒々しく、また隙あらばこちらの全てを取り込もうとするほの昏くも薄ら寒い”氣”を全身から発していた。 それが、あの”白いモノ”にはなかった。 だが、何か”力”を纏っていたのも事実だ
それに、怪談にも似た、焼却炉の前で行方不明になったという女生徒の話。
例えば―――その人がカミフダに取り憑かれた事で《隠人》と化したとしたら?(もしくは、カミフダの影響を受けた隠人に……隠人の声は、確かに獣の咆哮にも似ていた)
隠人はヒトをも取り込もうとする。 更なる《情報》を求める、抑えられる事のない貪欲な渇望。 それは最早、隠人が持つ”本能”なのかもしれない。
「……初任務にして、結構な重労働になるかもしれないなぁ」
それに、ほんの少し、気掛かりな事があった 今日知り合ったばかりの、クラスメートたち。
(穂坂はまだ何とも言えないけれど……壇には、勘付かれたかもしれない)
彼は単に腕っ節が強いというだけでなく、結構な鋭さの勘を持っているようだった。 加えて、頭の回転が悪いという訳ではない。 どこかで、千馗の持つ異質性を捉えていたのかもしれなかった。
「―――ん?メール……?」
着信音に意識を戻され、携帯を開く。 送信者は、まさしく今考えていたクラスメートのうちの一人。
「う〜ん……穂坂にも気づかれていたりして……」
まさに懸念していた事を見事に突いたメール本文の内容に、思わず苦笑する。 これは、本当に急いだ方がいいかもしれない。 「―――行くか」向かう先は、鴉乃杜學園・焼却炉。