「宝方っていい子だな」
「……は?」 秋も深まってきた昼下がり。
燈治の提案に乗り、揃って學園を抜け出しカレー屋に向かう道すがら。
突然の千馗の発言に、燈治は思わず面食らう。 「さっき、二人と合流する前に通りかかった廊下でバッタリ会ったんだ。踏み込み過ぎず、かと言って浅すぎず……友達に気遣いの出来る子だった。四角の話も興味深かったし」 後輩の様子を話す千馗の表情は本当に楽しそうで。
知り合ってから初めて見た朗らかな笑みに、同行者である燈治と弥紀は驚いていた。 「四角という一つの媒介を通して、物事の本質をよく見てる。感受性も高いんだろうな。それに、知識もすごい」
「あ、確かに四角について、蒐くんは色んな事を知ってるものね」 昼休み、保健室で蒐の四角談義を受けていたらしい弥紀が、微笑みながら手を合わせた。 「こっちがきちんと聞く姿勢を見せれば、向こうも応えてくれるし」
「ふ〜ん……そんなもんかねぇ」 頭を掻く燈治に、千馗は以前口元を緩めたまま。 「それに……大事なヒントを貰った」
「ヒント?」
「ああ。まぁ、詳しい話はカレーを食べた後に、な」 前を向いたまま、千馗は目を細める。 『花札、あるよ。菊と、紺色の細長い四角。すごく、綺麗な秋のカード―――』 別れ際に宝方から告げられた言葉。
そしてもう一つ脳裏に浮かんだのは、今朝に狐の神使から教わった事。 『カミフダに秘められた膨大な量の知識は―――時に、触れた者の心に隠れた”鬼”を呼び起こす……』 万象が持つ世界の真実―――表と裏。
輝かしい文明と叡智に潜む、鬼という名の”闇”。 飛坂が持ってきた辻斬りの事件。
今のところ、被害は鴉乃杜學園剣道部員の骨折だけに留まってはいるが。
長引かせれば、最悪死人が出てしまうかもしれない。 「……あまりのんびりはしていられない、な……」 《秘法眼》を持つ術者だけが為し得たという古の”役目”。
つい最近《封札師》になったばかりの自分が、どこまで出来るのかは分からないけれど。 それでも、やれる事をやるだけだ。