ヒトは誰しも心に”何か”を抱えている。
そして、ヒトでないモノは、ソレに足掻き苦しむヒトの様を視て嗤うのだ。





「”蛇と菊”……それが全てに繋がるキーワードだろう」



真っ直ぐな視線と答えを返した千馗に、燈治も頷いた。


「そう、それだよ。……長英が馬鹿な勘違いをしたのも、無理はねぇってこった」



先祖代々祀られてきたという水の神。
ヤマタノオロチの神話などにも伺えるが、水神は龍―――転じて蛇の姿で現される事が多い。



「蛇……細くて、長くて……つまり、帯状のものってことなのかな?―――あ!!」


思案していた弥紀が、脳裏に閃いたモノに声を上げた。


「確か、花札にそんな絵柄があったよね?菊に―――青短!!」
「ああ。花札に取り憑かれたと考えれば、筋が通るだろ?」
「剣道部員が見たと言う、”菊の花片”と得物にも一致する。まず、当たりだろうな」




蒐も言っていた秋属性の花札と、それを内包していた秋の《氣》を帯びた洞。
昼の廊下と、先程武道場で見た時の長英のひどく切羽詰ったような様子。
そして、燈治が話した宍戸氏の歴史。




全ての符号が、重なった。




「……壇の言う通り、宍戸は人より脆い部分があるんだろう。それは何も宍戸に限った事じゃない、ヒトなら誰しも抱えてるモノだ。だからこそ、ヒトは自分の脆さを上手く隠そうとする。宍戸はその隠す殻が薄くてかつ、隠し方が不器用なんだろうな」



一旦言葉を切り、千馗は左手を胸に添えた。

そして一呼吸したのち。



「そして―――カミフダは、そんなヒトの脆さを突いてくる。切り取った箇所を無理矢理捲り上げて裏返すように、本人の意思を殺してでも暴こうとする」



ヒトは弱い。
剥き出された”心”は、あっけなく壊れてしまう。
背負ったモノが大きいほど、重いほど、その重さに耐えられなくなる―――。



「飛坂の言ってた事は、確かに正しい。だが、いまのあいつじゃ余計に追い詰められただけかもしれねぇ。……自分を信頼してくれてる部員を自分で傷つけたんだとしたら、尚更な」
「急いだ方がいいかもしれないね。準備が出来たら、あの場所に行ってみよう」



三人は頷きあい、足早にグラウンドを駆けて行った。
起こって欲しくはない―――けれど、確信出来てしまう焦燥を抱きながら。