『生徒会より連絡します。3年2組の七代千馗くん、穂坂弥紀さん。あと一応、壇燈治。至急屋上まで―――以上』



ここしばらく続いていた平和は、そんな生徒会長さまの呼び出しで破られた。



「……ちょっと待て。おかしいだろ、今の……」
「巴の声だったよね。休み時間に屋上なんて……何かあったのかな?」
「何にせよ、行かないとかな」


わざわざ校内放送を使っての呼び出し。
きっと、何か重要な案件なのだろう。









「この間の花札を奪っていった男の情報が入ってきたの。彼は、寇聖高校の生徒よ」
「寇聖高校……?」



短い休み時間を使い、屋上に千馗たちを呼び出した巴の情報は、今現在最も気に掛けている事柄についてだった。
この地に来て日の浅い千馗には耳慣れない場所だったが、弥紀たちはそれなりに耳にしているようだ。


「寇聖高校って、確か新宿御苑の近くに最近出来たところだよね?学校っていうより、ビルみたいな建物の……」
「この前、駅前でもめた奴らが似たような制服着てたな。全寮制で、全国から一癖も二癖もある奴らを集めてるって噂なら聞いたぜ」
「それだけじゃないわよ。どっかのヤクザだかマフィアだかが構成員を養成するために作った学校だとか、優秀な生徒には爆発物や銃器の取り扱いも教えるとか……物騒な噂には事欠かないわ」


三人の話を総合すると、どう考えても”堅気でない臭い”が纏わり付いている。
これだけ多くの人々を擁する《新宿》という街だからこそ、何があってもおかしくはないと言えるが。



「寇聖の知人が言うには最近、とある一組織の活動が活発になってるって。……あの男はその組織の一員らしいわ」
「組織、か……」
「本当のところはどうだかわからないけれどね」
「それじゃ、もしかしてその組織っていうのが、他にも花札を……?」
「可能性は高いな。札を手に入れれば、《力》が手に入る。―――放っておいたら、ロクな事にならねぇ……だろ、七代?」


燈治の言葉に、千馗は無言で首肯した。
その組織がどういったものなのかは不明だが、ただ一つ明らかなのは。

―――《呪言花札》は、何の代償や制約もなしに扱えるような代物ではない。


知らず、胸元に置いていた左手を強く握る。

「どちらにしろ……キナ臭い事には為り得そうだ」
「アイツ……地下にも花札にも全然驚いてなかったわよね。当然のようにあたしたちを待ち伏せて、目的の物を手に入れた……」
「うーん……それってきっと知ってた、ってことだよね。もしかしたら、この学校の地下みたいな場所が他にもあるのかな?」



巴や弥紀の懸念はおそらく正しいのだろう。
少し前に、千馗は神使によってその可能性を示唆されている。
仮に、この學園の他にもあの大洞と同質のものが存在するのだとしたら―――



「―――」


そこまで思考し、不意に千馗はある気配に気付いた。

「ん?どうした、七代」
「この気配は……」


覚えのある気配が徐々に近づいて来るのを千馗は感知していた。
ひょっとして―――



「おそらく、其方たちの推測通りであろうな」

「白ちゃん!!」
「やっぱり、アンタだったのね。さっきから随分ウロウロとこの辺りを飛んでるじゃない」
「ふん……《龍脈》の流れを探っておったまでじゃ」


白鴉から転じて人身を執った白が言うには、ここ鴉乃杜學園には人工的に造られた《分龍》が存在するらしい。


《秋の洞》と《札憑き》を生み出した秋属性の《花札》。
そして、

(”力の吹き溜まり”、か……)


そんなものが、何の意味もなく一介の高校の真下に偶然存在するものだろうか?



「ひょっとすると、ここには―――なんじゃ、揃いも揃って間抜け面しおって」
「……ん?」


周りを見渡せば、皆一様に目を白黒させていた。
……考えてみれば、《力》を手にしたと言っても、彼らはごく普通の高校生であることに変わりはない。
故に、この反応は当然とも言えた。


「って言うか、そもそも《呪言花札》って何なのよ」
「面倒じゃのう……」


心底嫌そうに顔を歪める白に、千馗は苦笑を返した。
いずれにせよ、関わるならきちんとした知識を得ておくべきだろう。


「頼む、白。オレが半端な事を言うより、理解者が一から説明した方が手間が少ない」
「……仕方ない」



そして白から《呪言花札》が持つ”季節”と”属性”、それに伴う四季を擁した洞の存在、更に大地の生み出す”氣”の流れ―――《龍脈》について粗方説明を受けた。



(あの人も……”氣”の流れの事は、特に念入りに話してくれた気がする)


《秘法眼》―――自分のように、時に過剰なくらい其処に在るモノを”視て”しまう者もいるから。



「札は求める者に導かれる。このように、一所に幾枚もが留め置かれるなどいままでになかった事じゃ。この地には、何かあるのやもしれぬな……」


そう締め括った白の言葉は、やはり引っかかりを覚えるもので。



「……まぁ、七代がわかってりゃ問題ねぇ事だよな」
「封札師って言ったっけ?結構大変なのね、七代君も……」

しみじみ言う巴に、千馗は苦笑を溢すだけだった。
識る事は、千馗にとって苦ではない。
《力》が在るのなら、それに伴う知識を出来るだけ多く理解しておく必要があるから。



そして、休み時間の終了を告げるチャイムに伴い、その場は一先ず解散する事になった。



「……七代。其方もそろそろ自覚は出来てきたじゃろうが、妾たちは一刻も早く残りの札を集め封じねばならぬ。札は強き意志を持った者の手か洞のどちらかにあると見て間違いない。其方だけが全ての札を従える執行者なのじゃ。努々忘れるでないぞ」



白の言葉には、花札の番人としての矜持と責務が見え隠れしていた。
教室に戻る傍ら、千馗は瞳を伏せる。


「全ての花札を従える者―――《執行者》、か……」


求められたのなら、応えるのは道理だろう。
この身と、己の中にある”矜持”の限り。