じーっと、黒い瞳がこちらを見上げている。
首を傾げ思考する事、数瞬。
取り合えず、しゃがんでその柔らかそうな毛並みを一撫でしてみる。 「……わふっ」 「……何やってんだ、七代」
「いや、なんとなく」
「あ、でも嬉しそうだよ?」 どうやらお気に召して貰えたらしい。
ついでに、自分もそのフワフワな毛並みに感動していた。 「あ、もしかしてフレンチトーストが欲しいのかな?」
「わふっ!」 まるで穂坂の言葉を肯定するかのような呼び声が上がる。
……とは言え、犬に砂糖の塊とも言える物を与えるのは如何なものか。 「―――カナエさん」
「キューン……」 ああ、やっぱり。 目に見えてしょんぼりしてしまった茶色い毛並み――カナエさんを前に、千馗も目尻を下げる。 「ごめんな。でも体に悪いんじゃアレだし……これで勘弁」 痛くないよう加減しながら、ワシャワシャと毛並みを撫でてみた。 「くぅ〜ん」 少しは浮上してくれたらしい。
心地良さそうに目を細めている。 「……すまんな」
「いえ」 以前教えられた事がある。
人の食物は、動物たちにとっては過剰摂取になると。
好物を食べて体を壊してしまっては元も子もない。 「あの、私たち―――」
「情報屋に用がある―――そうだろう?」 壇の言い分ではないが、このマスターも結構な洞察力の持ち主だ。
さすがは裏で依頼の仲介をしているだけはある。 「お前たちは運がいい。もう、来る頃だ」 その声を合図にしたように、来客を知らせるベルの音が店内に響いた。 「………僕の話はこれでお終いだ」 件の情報屋―――香ノ巣絢人から提供された内容は、確かに有益な物だった。
穂坂が頑張って条件を充たしてくれただけの事はある。
(熱弁される香ノ巣の性癖にドン引きしていた飛坂の顔色があまりにも不憫なものだったので、いっそ自分がかましてやろうかとも思っていたのだが) 夜な夜なこの新宿の街を文字通り飛び回っているらしい、正体不明の正義の味方。
神に仕える家系の子女を擁している八汎学院。
そして、 「あの、盗賊団について、もう少し教えてもらえませんか?」 悪名高き寇聖高校の中でも他の追随を許さないらしい極悪集団―――鬼印盗賊団。
先日、突如洞に現れ花札を持ち去った男は、その盗賊団の参謀だという。 「そいつらに奪われた物を、取り返さなきゃいけないんだから……」 そう、香ノ巣の情報をオレたちが予測した通り、この集団が呪言花札を有しているというのなら―――。
それがどれほど危険な事だとしても、対峙しない訳にはいかないのだろう。