「武藤、足下に気を付けて。雉明も」
「ああ」
「大丈夫!あたし、運動神経は良いから!」 武藤の返事に、七代は口元を微かに緩める。
が、すぐに前を見据えると、辺りに気を配っていた。 ―――彼の観察眼は、目を見張るものがある。 先程の模擬戦にしてもそうだ。
秘宝眼を持つとはいえ、いきなり異形と戦えと言われれば驚き混乱するだろう。 だが、彼は支給された竹刀とパチンコを確かめるように幾度振り、配置された擬似敵を葬ってみせた。
今まで何か特別な修練をしていた訳ではないと言う。
ならば、これらは純粋に彼の”力”そのものによる結果なのだろう。 彼の”力”は強い。
それこそ――― 「―――ッ武藤!雉明!止まれ!!」
「え?え、えッ?!」
「ッ!」 突然の制止にバランスを崩しかけた武藤を支える 「わッ!ごめん、雉明クン!!」
「いや、」 「―――痛…ッ」 武藤の謝罪と、耐え切れなかった様に漏れた声が聞こえたのは同時だった。 「七代!」
「七代クン?!」 顔を上げれば、飛行型の隠人の攻撃を受けた七代の姿が視界に映った。 「し、七代クン!大丈夫?!」 急いで七代の居る岩場に飛び移って行った武藤の後を追う。 「……ああ。少し、痺れてるだけみたいだ」 言葉の通り、七代は両腕が微かに震えを起こしている。
どうやら、軽度の麻痺状態にあるようだ 周りには、同じような飛行型の擬似隠人が二匹。 「……すまない、武藤、雉明……そいつらを、頼む」
「任せて!七代クンは休んでていいからね!………ハアアッ!」 武藤の繰り出した拳が、隠人に直撃した。
……良い拳だ。 「すごいな……武藤、何かやってたのか?」
「えへへ!あたし格闘技とか興味あるし、好きなんだ!」
「ああ、なるほど」 「……ッ伏せろ、七代!」 言うと同時に脚を振り上げた。
本来であれば”力”を行使するのだが……ここで使用するのは、得策じゃない。
「ふう……雉明も良い足技持ってるな」 「いきなりですまない。当たらなかっただろうか」 「ああ。むしろ助かった」 「すごいね、雉明クン!」 「いや」
会話が終ると同時に、七代が立ち上がる。 痺れは抜けたようだった
「……大丈夫か?」 「ああ。感覚が戻ってきたみたいだ」 「そうか……良かった」
知らず強張っていたらしい、肩の力が僅かに抜けたのが分かった。 ……安堵する、とはこういう事を言うのだったか。 武藤も、幾分か柔らかい雰囲気を取り戻したようだ。
「よぉし!じゃあ、先に進もっか!」 「ああ。またオレが先行する。雉明、後ろは頼む」 「わかった」
おれの言葉に七代は口元を緩めると、一息に跳躍して行く。
……信頼、されたのだろうか、あの笑みは。
そう頭で認識した途端、胸の内が仄かに温かくなっている事に、気付いた。