不思議な人だと思う。
前を行く細身の―――けれど、女の自分よりは広いと思える背を目にしながら、いちるは一人ごちる。



数年前、何の気もなしに受けた図書館でのアンケート。
それが巡り巡って、自分が常人とは違う<眼>を持っている事を告げられ、得体の知れない異形を倒しつつ、うす暗い洞窟の中をひたすら進んでいる。



一人だったら、もっと混乱していただろう。
けれど、自分以外にも同じような”力”を持った人たちと、逢う事が出来た。



「武藤、どうかしたのか?」
「あ、ううん!!何でもないんだ。心配してくれてありがと、雉明クン!」



一人はまるで透明な水のような、静かな雰囲気を纏っている青年――雉明零。
表情が薄く、言葉数も多くはないが……ここ数時間でのやり取りで、それなりに話せるようにはなってきた。



そしてもう一人は―――七代千馗。
彼もまた、纏う空気が常人とは違うように思えた。



ひどく印象に残っているのは、強い光を奥に秘めた瞳。
表情自体は静かなものなのに、こちらを真っ直ぐ見据える”眼”の強さに、吸い込まれそうだと思った。



そんな彼は今、自分たちの先頭に立って前に進んでいる。
例え異形を目の前にしても、彼はさほど慌てる事なく上官の指示に従い、敵を殲滅してみせた。



出会って数時間。
彼の人柄全てを理解出来たわけではないけれど。



彼はきっと、並大抵の事では下を向いたりしないのだろうと思う。





「―――――雉明、武藤。少し、止まってくれ」





前を行く七代からの台詞に、ピタリと足が止まる。



「何か、問題が起きたのか?」
「いや………」



雉明の問いに答えつつも、七代の視線は前方を向いたまま逸らされていない。
少しずつ、緊張が高まっていく。





「………大丈夫そうだな」





ふ、と七代の肩から力が抜けた。
同時に、前方に向けられていた顔が、いちると雉明を捉える。



「広い空間に出れそうだ。隠人の気配もなさそうだから、少し休憩を取ろう」



言葉と共に、少しだけ緩められる口元。
初めて見たと言える彼の微笑に、いちるは目を丸くした。
隣に居る雉明も、目を瞬いている気配がする。




「…二人とも?どうした?」




今度は不思議そうに首を傾げる。
それだけの動作が、彼に少しでも近づけた証のように思えて、いちるは何だか嬉しくなった。



「うん!さんせー!!ずっと歩きっぱなしなのは、疲れちゃうもんね!!」



明るい声が洞窟内に木霊する。
そんないちるの様子に、七代は苦笑を漏らしていた。



「雉明も、それでいいか?」
「あぁ。きみが決めたのなら、それでいい」



微かに目元を緩ませて頷く雉明に、七代も同じく頷き返した。




「じゃあ、いこう」




そう告げてまた前を行く凛とした背を、二人もまた追いかけた。









凛と伸ばされた背筋




鴉組+千馗も好きですが、同僚二人+千馗の組み合わせも好きです