「まさか、こんなものまで調合で作れるとは思わなかったな…」 数個のたい焼きを皿に並べながら、千馗は一人ごちた。
今、千馗は羽鳥家の台所を借りて料理―――もとい、<調合>に勤しんでいた。 洞で遭遇する隠人からは、倒すごとに稀に物体を落とす時がある。
情報の塊である隠人に一定量の衝撃を与えることにより、情報の断片が本体から切り離される。
それを視覚で捉える事で「物」として存在する――――と、千馗は考えている(実際どんな原理かはよく分からない)
調合で作った食物は、洞に居る間の体力回復を促進してくれる。 自分一人だけならともかく、同行してくれる仲間たちに無理はさせられないし、自分が倒れて迷惑をかけるなどもってのほかだ。 ゆえにこうして時間がある時に、千馗はこうして調合を積極的に行っていた。 おかげで料理の腕も以前より上がった…ような気がする。
「魚介類の残りは明日の弁当にでも入れるとして…あんこ玉は、依頼の時に必要になる場合もあるし…」
残りの食材の使い道を吟味しつつ、千馗はしばしば熟考する。 そして、ある物が眼に入った。
「あぁ…これなら…」
とある食材を手にし、千馗は口元に笑みを浮かべた。
「千馗さま〜」
調合の後片付けを終えて縁側を歩いていると、弾んだ声が千馗を呼んだ。
「あぁ、鈴」 「お姿が見えなかったですが、何かなさっていたですか?」 「ちょっと台所で調合をね」
パタパタと駆け寄ってきた愛らしい神使の姿に、千馗は口元は緩める。
「そうだ、鈴。甘い物は大丈夫?」 「はう?甘い物、ですか?はい!大好きなのです!!」
全開の笑顔に千馗も良かった、と微笑むと、懐から取り出した物を二つに割った。 そしてキョトンとしている鈴に口を開けるように促す。
「こう…ですか?」
素直に口を開けた鈴の姿にまた笑みを零し、さらに小さく割った物を鈴の口の中に放り込む。 口の中に一杯に広がった甘い香りに、鈴の目が丸くなる。
「どうかな?」 「甘くて美味しいのです」 「それは良かった」
本当に嬉しそうな姿に、千馗は残りを鈴の手に持たせた。
「これ…お饅頭なのです?」 「余った材料で作ったんだ。良かったら鍵さんとも分けて食べてくれないか?」 「はいなのです!!千馗さま、ありがとうございますなのです!!」
鍵さーん!!千馗さまから頂いたのです〜!!
来た時と同じようにパタパタ駆けていく後姿を見ながら、千馗は微笑んでいた。
「…明日は、壇たちにも何か持っていこうか」
そんな事を呟きながら。
いつもの日常の延長線上に、僕たちの幸せがあればいい
何気ない一瞬が、最も愛おしい