「壇、どうする?」
「あ〜…、俺はビッグマックのセットで」
「そうか。雉明は?決まったか?」
「……何がいいんだ?」
「そう難しく考える必要はないよ。雉明が食べたいと思ったものを選べばいい」


苦笑する千馗に目を瞬き、零は差し出されているメニュー表に視線を落とす。
ある程度思考し、ゆっくりと指で指し示した。


「ん、チーズバーガーだな。サイドメニューはどうする?ポテトとかドリンクとか」
「……食べて、みたい」
「了解。それじゃ、セットの方がいいな」
「千馗はどうすんだ?」
「俺はハンバーガーセットで」



手早く燈治や零の分も含めて注文をしている千馗の表情を、燈治は何とはなしに見ていた。



(……楽しそうだな)



常の千馗は、あまり表情を動かさない。
無表情というわけではないのだが、あまり大げさに感情を発露させないのだと思う。
……その割には、盗賊団の頭や正体モロバレのヒーローなどの高すぎるテンションとも対等のに付き合えていたりするので、不思議なのだが。



「お待たせ」
「おー。じゃ、適当に座るか」



男三人分の注文だとさすがに量がある。
分担してトレーを持ちつつ、都合よく空いていた席にそれぞれ腰掛けた。



「…これが、はんばーがーというヤツなのか」
「そう、正確には零が頼んだのはチーズバーガーで、ハンバーガーは俺が頼んだヤツだけど」



花札の化身である零は、現代の知識には疎い面がある。
そんな零の手を引いて、千馗は某有名ファーストフード店に連れて来ていた。
偶々予定の空いていた燈治にもにこやかに声をかけて、だ。



「白に対しても思ったけどよ、花札ってのはジャンクフードを好むもんなのか?」



満更でもなさそうにチーズバーガーを食べる零に、ポテトをかじりつつ燈治は尋ねた。



「元が無機物である俺たちに、元来”食事”という概念はなかった。……多分、それだけ感情が育ってきた証明でもある、と思う」
「白の場合は純粋に個の趣向も入ってるんだろうな。昔と違って、現代は濃い味付けの食べ物が多いし」
「そんなもんかねぇ」
「なんにせよ、食べる楽しみを覚えるのはいい事だよ」



そう纏めて、千馗は笑う。
やはり、どこか常より表情が発露されているその笑顔は、いつもより眩しい気がする。



「焼きそばパンは、焼きそばとパンが同時にあったけれど…これは、パンと肉が、同時にあるんだな」
「おかずと主食が同時に食せるものだから」
「……それで、なぜ『はんばーがー』と言うんだ?」
「う〜ん…。『肉パン』だと、語呂が悪いからじゃないか?」
「いや、それも違ぇだろう…確かに語呂悪ぃけどよ」



何故か真剣に考え込んでいる千馗に、燈治は軽く溜息を零した。
大人びた面が見えるかと思えば、たまにこんな突拍子もない事をやってのける。
……だからこそ、共に居て退屈しないのだけれど。


ふと、目線をずらせば、同じく千馗に視線を向けている零がいた。
彼の千馗を見る瞳は、優しい。


そこで、燈治の脳裏に、ある考えが浮かんだ。







「……雉明。お前、ハンバーガーどうこうってより千馗と飯食いたかったのかよ」


粗方トレーの上にあった物も食べ終わり、千馗が所要で席を外しているのを見計らって、燈治は尋ねた。
燈治の中ではほぼ確信めいていたのだが、一応聞いてみたかったのだ。
対する零もまた、穏やかな瞳でもって答えた。



「花札の件が片付いていなかった時も、千馗はよく俺に食べ物をくれた。一緒に何かを食べるのは初めてじゃないが…こんな風に、店に入って他愛無い話をしながら、というのはあまりなかった」
「まぁ…状況が状況だったろうしなぁ」
「だから、嬉しい。千馗と一緒に、何でもない日常を過ごす事が。……今日の千馗は、いつも以上に笑っているような気がする」
「……お前から見ても、そう思うのか」
「壇も、気づいていたんだろう?」




呪言花札を巡る過程では様々な事があった。
明かされた真実に、誰よりも重荷を背負っていたのは、他ならぬ千馗だった。
彼は、最後まで穏やかなままだったけれど。



「彼には、ずっと笑っていて欲しい。無理に抑えたような表情でなく…心から、笑っていて欲しい。……それを、彼の傍で見ていたいと、思う」
「……なるほどね。それが今のお前の…お前たちの、願いってヤツか」
「君も、同じなんじゃないか?……君だけでなく、千馗の周りにいる人たちの、共通の願いのはずだ」





悩んで、考えて、覚悟して。
選び、願い、そして掴み取った未来への道。



だからこそ、彼には笑っていて欲しいのだと。



「ま、否定はしねぇよ。……だからこそ、こうしてここに居るんだしな」
「そうか…そう、だな」


ふいに、零が視線を上げる。
それに燈治が習うと、何かを抱えた千馗が二人の所へ戻ろうとしていた。
視線に気づいた千馗が笑いかける。



それは、きっと何よりも望んでいたもので。



零も燈治も、微笑み返した。




本当の幸せを、噛みしめて




マッ○でハンバーガー食べながら唐突に思いついた話(爆)
10話での自由行動を見て以来、W相棒→千馗に萌えてしょうがありません