意思と共に出現するカード。
それを力を込めるように握り込めば、散りばめられた破片から「もう一人の自分」が形成される。


「ジャックフロスト」
「ヒホホー!!ブフーラだヒホー!!」


青いキャップがトレードマークの雪の精から精製された氷河が、今まさに飛びかからんとしていた獰猛な”影”を粉砕した。


「お疲れさん」
「……花村」


油断なく辺りを見回していた最中にかけられた声に振り返れば、ヘッドホンを外しながら労わりの言葉をくれる鳶色の瞳とかち合った。


「どうする?もうちょい進むか?」
「いや……今日はもう上がろう」
「あいよ」


他のメンバーにも帰還を告げに行く背を追いながら、探索のリーダーである朔槻榎那はそっと息を吐いた。




「朔槻くん、大丈夫?」


開口一番、スタジオに見立てられたTV内の入口広場に戻ってきた榎那に対し、同じ特別捜査隊のメンバーである天城雪子はいやに真剣な顔で迫っていた。

ひょんな事から行動を共にしているキツネから精神を回復してくれる葉を受け取っていた榎那は、そのあまりの勢いに若干引き気味になってしまう。


「天城?その、どうかした…?」
「朔槻くん、顔色がすごく悪いんだもの。無理してない?」
「あ〜…言われてみれば確かにそうだよね。てか、マジですごいかも」


遠巻きに二人の様子を見守っていた里中千枝も、雪子の言葉と榎那の顔色に眉を顰めた。


「まあ、最近探索続きだったからなあ。ここいらで少し間を入れようぜ」
「……そんなにひどいか?」
「少なくとも今のお前に比べりゃ、シャドウの方がまだ生き生きしてるな」
「………」


困ったように首をかく榎那を見つめながら、花村陽介は小さく嘆息した。


静かだった小さな田舎町を突如襲った奇怪な事件を追っている内に、この奇妙な異世界に潜り込むようになってから少なくない時間が流れた。
同級生でかつ同じクラスメイトであり、千枝の無二の親友である雪子を救出した後、事件解決のために立ち上げた『特別捜査隊』の面々はこうして度々TVの中に入っては、自身の力を養うため探索と称した戦闘を行っている。

”己の影”と向き合う事で得たもう一人の自分―――「ペルソナ」を鍛えるため。
そして自身の戦闘に対する経験値を蓄えるため……それが主な目的だ。

榎那はそんな彼らのリーダー的な役割を果たしている。
そこに至るまでの理由は多々あるが、一番の決め手は榎那だけが持つ特殊なペルソナ能力だった。

本来なら一人一体しか持ち得ないペルソナを榎那は複数用いる事が出来るのだ。
シャドウとの戦闘中に陽介は彼がペルソナを付け替える様子を何度も見ているが、未だに不思議に思う。

……だが、やはり精神的疲労も著しいようで、ここ最近の榎那は元々色白だった顔色がますます青褪めて見えていた。


……頑張りすぎだっての。


まだ短い付き合いながら、陽介は榎那の気性を多少なりとも理解しているつもりだ。
榎那がリーダーという役割を抜きにしても、陽介ら捜査隊のメンバーの負担を最小限に減らそうとしてくれている事を知っている。
陽介たちとて、ペルソナを使う以上は精神的疲労は避けられない。
敵への牽制のため、常に榎那が先頭に立って戦うのも、先に自分が動く事で後発の負担を少しでも軽減しようとしてくれているのだろう。


そこまで思い至り、陽介は口元を自嘲気味に歪めた。
彼をリーダーに推したのは他でもない自分だ。
決して面倒事を押し付けるつもりはなかった。
単純に、彼なら―――彼になら付いていく事が出来ると思ったから。


矛盾、してるよな……。


「……花村?」


透き通るように響いた声音に慌てて首を向ければ、気遣いを宿した銀鼠色の瞳と目が合う。
要らぬ心配をかけてしまった事に内心舌打ちをしつつ、陽介は勤めて明るい声を出した。


「わりぃ。ほら、今日はもう出ようぜ。俺、腹も減ってんだよ」
「そういえば、あたしも小腹が……雪子、帰りに何か食べてかない?」
「そうだなあ……」


途端、図ったように会話を続けてきた千枝たちに驚いて顔を向ければ、揃って真摯な視線とかち合った。


考える事は同じってか。


内心苦笑しつつも頷く仕草をすれば、二人ともほっとした様子を見せた。


「うっし!じゃあ、うちのフードコートで何か食ってこーぜ!!朔槻には菜々子ちゃん用に土産つけるし♪」
「え…でも……」
「いーじゃんいーじゃん!!ここは花村の奢りだしね」
「菜々子ちゃんも、ジュネスのお土産なら喜ぶと思うよ?」
「いや、つか俺が奢るなんて言ってねーし!!せめて割勘にして下さい……」


そんな会話を交わしながら、陽介はチラリと榎那の様子を盗み見た。
千枝たちと和やかに談笑しているその顔は、先程より血色が良いように思う。


取り合えずは、ミッション完了ってか…?


事件は未だ解決の目処が立たず、今後どのような事が起こるか分からない。
それでも、彼とはこの先もずっとこうして共に笑い合っていたいから。


そんな事を胸に秘めながら、陽介も彼の居る輪に加わるべく足を進めた。