山と積んである食品が小柄な青い機体に吸い込まれるようにして消えていく。
そんなある種異様とも言える光景を、ゼロとアクセルは二人揃って眺めていた。


「何時見てもすごい食べっぷりだね〜」
「…そうだな」


二人分の呟きが十分届く距離でありながら、青い機体は反応を示さない。
ひたすら手にした食品を黙々と摂取していくのみだ。
とはいえ、二人にしても彼がそんな風に“食事”を取る事は承知済みであったので気にしてはいなかった。


「エックス、何か飲むか?」
「お茶」
「紅茶?それとも緑茶?」
「……緑茶」
「りょうか〜い」


粗方目の前に積まれていた食品が消えた頃合を見計らってゼロが掛けた声に、青い機体は端的に返す。
それを継いだアクセルの質疑にも、次の山に手を出しながら僅かな間を置いて返した。
返答を聞いたアクセルは要望に応えるべく、部屋に備えられている簡易キッチンへと姿を消す。
それを何とはなしに見送ったゼロは、焦点を再び青に戻した。
アイカメラに映るのは、やはり黙々と食品の山を崩している彼。


長閑だな。


思考回路にそんな単語が浮かびつつ、ゼロは青い機体の“食事風景”を眺めていた。




レプリロイドに元来“食事”という概念はない。
そもそも食物を模した擬似品から摂取出来るエネルギー量など、微々たるものだからだ。
ただ、趣向の一種として食事の真似事をするレプリロイドも少なくはない。


エックスもそんな趣向を持ったレプリロイドの一体であり、しかもその小柄な機体に反して結構な大喰らいであったりする。
その上、彼は“食事”の際には決して自ら口を開く事はない。
ひたすら黙々とレプリ用に加工された食材を口元に運んでいくのである。
普段の彼はその『限りなく人間に近い思考回路』故に感情表現が多彩なため、その無言無表情な“食事風景”は彼をよく知る者から見れば結構なインパクトがあった。
ゼロ自身、初めてその光景を目にした時は唖然としたものだ。


だが、実の所そんなエックスの趣向はあまり知られてはいなかったりする。
何故ならエックスは他人の目がある所では一切その趣向を出さないからだ。
彼は自身の“食事風景”が他人から見た際どんな印象を与えるか自覚しているようで、「胸焼けでも起こさせたら申し訳ないから」と人前では滅多に“食事”を取らない。
また、大勢の目がある場で“食事”を取る場合は至って普通の量に留めるのである。


あくまで趣向ゆえ、別段エックス自身は食事量が少ないからと言って不満を覚える訳ではないらしい。
それはそれでどうなのだと思ったものだが、生真面目なエックスらしいと言えばらしかった。


が、ゼロは自身を前にエックスに遠慮など感じて欲しくはなかった。
イレギュラーハンターとして前線に出ている時ならともかく、親友としてお互い心許している仲で自らの趣向を抑えさせるほど狭量ではない。


何より、エックスのそんな隠れた趣向はある種のストレス発散の役目を担ってるようにゼロには感じ取れたのだ。


その生真面目な性格と機体に組み込まれている『限りなく人間に近い思考能力』故に、彼は放っておくと止め処なく内に沈んでいく傾向がある。
黙々と進められる“食事”はそんな彼が何の衒いもなく無心になれる行為ではないかと。


本人に確認を取った訳ではないものの、そう判断したゼロがエックスに言った事は一つ。
「俺が居る前では量など気にせず、好きなだけ食べろ」であった。


初めはそれでも遠慮していたエックスであったが、自身の趣向を知られても平然としているゼロに安心したのか今では何の気概もない。
むしろゼロはそんなエックスの“食事風景”を眺めるのが定番ともなった。
珍しく仕事が休みになる日などは、こうしてエックスの自室で彼の“食事風景”を見つつのんびりと過ごす。


それに何時しかアクセルまでくっ付いてくるようになったのは予想外であったが。
アクセルもまたエックスの隠れた趣向に目を丸くしつつ、逆にそのギャップを気に入ったようだ。


「エックスの以外な一面が見れて、むしろ嬉しい」などと無邪気に笑ったものである。


ちなみにそんな趣向持ち故か、エックスは料理の腕前も上々であった。
純粋な戦闘型の機体である彼が細々と料理をこなす姿もまた、ゼロやアクセルの密かなお気に入りであったりする。



「エックスー、いれたよー」
「………ああ、ありがとう」
「ゼロもついでに」
「ああ、悪いな」


三人分のカップをトレーに乗せたアクセルがキッチンから出て来た時には、既にエックスは“食事”を終えていた。
どことなく満足げに息を吐く青い機体に、ゼロとアクセルがこっそり笑みを零す。



「ところで二人とも、せっかくの休日なのに出掛けたりしないのか?」
「んー……だって、どっか行くよりここでエックスと一緒にのんびり過ごしてる方がいいもの」
「同感だな」
「………まあ、俺は別に構わないんだけど」


「二人とも変わってるな」と不思議そうに首を傾げるエックスに、やはりゼロとアクセルは笑みを絶やす事はなかった。








長閑日和







ハンターズでちょっとした休日風景。
エックスさんが大食いだったら萌えるという、私の独断と偏見による趣向より(爆)
先輩も新人もエックスさんと過ごす事が何よりのリフレッシュ方法なんです。