翠玉色のレンズから止まる事なく溢れる雫。
まるで新緑から零れる朝露のようだ、なんて。
情緒をごっそり置いてきたような出来であるはずの思考回路に浮かんだ例えに、ゼロは内で笑った。 普段彼がそうやって涙を零せばどうしたって止めてやりたくなるのに、今はゼロのためだけに流される透明な雫にどうしようもなく歓喜している。
こんな考えを知れば、目の前の親友は烈火の如く怒るだろう。 「こんな時に何を言っているのだ」と。 ゼロの内は驚くほど穏やかに凪いでいた。
痛覚神経を遮断せずとも、下半身を丸々失った機体は既に何も感じはしない。
あるのはただ、この尊い青の足枷にならずに済んだ安堵感だけだ。 最も、この優しすぎる”心”を持った親友を傷つけてしまった自覚もあった。
彼の生まれ持った性情は時に他の何よりも彼自身を追い詰め、雁字搦めにする。
いっそ戦いそのものから離れた方が遥かに楽になれるだろう。 だが……彼は決して逃げようとはしない。
戦いを厭いながら、同類を自身の手で破壊する行為に怯えながら。
純戦闘型という機体性能の事を差し引いても、彼は『戦う者』で在り続けるのだろう。 ゼロはそんな彼の隣に自らの意思で居た。
危なっかしいその在り方に、庇護欲が湧いたのも確かだろう。
けれど、何よりゼロは見てみたかったのだ。
その小柄な青い機体に秘められた”可能性”を、誰よりも近くで見届ける事を望んでいた。 「エックス」
「ゼ…ロ…」 青の名を呼ぶ。
嗚咽を含んだ掠れた声音が、ただ、愛おしい。 「さあ、往け。お前にはまだやるべき事がある」 優しい彼に酷な事を言っている自覚はある。
けれど……どれほど傷ついても最期まで足掻く事を止めない彼の性質を、誰よりも理解しているが故に。 未練がましく自身の代わりに与えたバスターを以って、その背を押した。 「ゼロ…」
「俺にも見せてくれ……お前の紡ぐ、未来ってヤツを」
「……っ…!!」 雫がゼロの人工皮膚を濡らしていく。
縋るように掻き抱かれた腕の中、やはりゼロは薄い笑みを浮かべるだけだった。 惜しむらくは、機体強化のために装着された各パーツが常の鮮やかな青を覆ってしまっている事だろうか。
どうせ最期なら、何よりも尊い青に包まれて眠りにつきたい。 そんな事を告げたら、まず間違いなく怒声を上げられるのだろうけれど。
盾になる人
この行為ですら、お前の心に永久に残るための手段だと誰かが最奥で嗤った
岩本版Xでのゼロ先輩のエックスさんへの言葉は心に刺さりました…。 誰よりも争いを厭いながら、エックスさんは”戦う人”でしか在れないのだと思ってます。