「参ります―――」 静かな声音と反するように、放たれた剣閃は鋭く。
一分の狂いもなく目の前の隠人を沈めてみせた。 「お見事―――さすがだな、佐波守」
「……七代さん」 札強化によって生み出した刀の構えを解きつつ、千馗は同行者の腕前を素直に賞賛する。
人からの純粋な好意に不慣れな紅緒は戸惑ったように瞳を泳がせ、俯いてしまった。
そんな彼女の様子を茶化すでもなく微笑ましそうに一見し、千馗は前を向く。
既に一度は探索済みの洞内ではあるものの、何か不測の事態が起こらない可能性も否定出来ない。 故に千馗の視線は常に周りの様子を観察していた。 気負いすぎず、かと言って弛んでもいない。 紅緒はそんな千馗を眩しいものを見つめるように目を細めながら見ていた。
剣しか取り柄のない自分 けれど、彼のために自身の腕が役立つのなら行幸なのだろう。
何より―――
不意に千馗が振り返り、紅緒に薄く笑いかける。 紅緒もそれにぎこちないながらも笑みを零した。
「依頼が完了したら少し休憩しよう。丁度小部屋になってるみたいだし……月舟も、あと少しだから我慢してくれ」 「キュイッ」
肩に乗せていた小さな友人から元気よく声が上がる。 こんな風に、些細な事でも声をかけてくれる事がひどく胸の内に暖かな想いを呼ぶのだと、彼は知っているだろうか。
「―――七代さん、来ます」 「ああ。―――まったく、息付く暇もないなぁ」
ふと、琴線に触れた異質な気配。 肩を竦めるような言葉とは裏腹に、千馗の視線は決して隠人から外れることはない。 紅緒もまた、彼のために道を開くべく刀の鯉口を切った。
あなたを守る鞘となりて
あなたの隣で刃を振るう