鴉乃杜學園・音楽室。
昼休みの間ほぼ無人となるその一室で、千馗はクラスメート二人を誘って昼食を取っていた。 「千馗。お前、調合…って奴だっけか?それ以外でも料理出来たんだな……」
「まあね」
「このサンドイッチ、美味しいよ、千馗くん」
「ありがとう」 手製の弁当に感心する燈治と、にこにこしながら料理を口に運ぶ弥紀の姿に、千馗の顔も綻ぶ。 先日の千馗が冬の洞内で行方不明になった事件の折、二人には結構な迷惑と心配をかけてしまった。
せめてもの礼にと、千馗は二人に手料理を振舞う事にしたのだ。
他にも同僚のいちると、実は上司には内密にして割と頻繁に会っている零にも、何か作って渡すつもりだったりする。 「ま、お前が無事戻って来たんだからいいんだけどよ……本当にあれから何ともないんだろうな?」
「別に、どこも悪くなってはいないよ」
「壇くん、ずっと千馗くんの事、心配してたものね」
「そりゃ……いきなり目の前で消えられたんだぞ?普通、焦るだろうが」 弥紀の指摘に、決まり悪げに頭を掻く燈治。
聞いた話によると、彼はかつてない程に余裕を無くしていたらしい。
申し訳なく思う反面、くすぐったい様な気持ちになって、千馗は首を竦める。 「でも……千馗くんに何もなくて良かった」
「……だな」 弥紀の心から安堵している声音に、千馗は同級二人の方に顔を向ける。
二人は、何とも言い難い色合いをした瞳を、千馗に向けていた。
この二人だけではない。
他校に在籍している仲間たちや、敵対しているはずの盗賊団幹部たち。
果ては己の上司と、その同僚の二人にも世話になった。 皆のおかげで、千馗は戻る事が出来た。
昏く哀しい”想い”に、完全に引き込まれる前に。 す、と右手に触れる。
全速力で駆け付けてくれた同僚の少女の泣き笑いのような顔が。
消息不明の身であるはずなのに、単身己が囚われていた異空間まで乗り込んで来てくれた、同じく同僚である青年の静かな笑みが。
脳裏に浮かんでは、消えていく。 千馗を捕えたモノが”想い”の鎖ならば。
その囚われた千馗を引っ張り上げてくれたのもまた、”想い”の結晶なのだ。 ヒトの”想い”は時に様々な事象を呼び起こす。
そう評したのは、世話になっている神社の神使だったか。
それとも、契約を交わし共に行動するようになった、《カミフダ》の番人だったか。 「………ありがとう」 万感の想いが込められた千馗の言葉は、確かに燈治と弥紀に届き。 「当たり前だろ。俺たちは全員……お前の事、信じてんだからよ」
「いつだって、千馗くんの事、呼ぶからね」 そう言って、笑ってみせた。 何かで繋がる人 それは、絆という名の