しとしと、と。
小さく、それでいて止めどなく天から降りる雫が奏でる音を、千馗は聴いていた。



眠れない、という訳ではない。
ただ、やけに神経が高ぶり思うようにまどろみが訪れない夜、というものがあった。
そんな時、千馗はよく雨音を聴く事を好んだ。



この日も、日頃の喧騒で疲労を感じているはずの身体に眠りの気配がなかなか訪れず、目を閉じただ雨音を聴いていたのだが。



(………?)



夜の帳に包まれた己の部屋。
にも関わらず、自分以外の気配を微かに感じる。



「―――ッ!?」



うっすらと眼を開けた先、こちらを見つめていたらしい透明な瞳とかち合い、思わず声を上げかけた。



「……雉明…?」
「…すまない、起こしてしまっただろうか」
「いや、眠ってはいなかったから……」


いまだ早鐘を打つ心の臓を宥めつつ、千馗は息を吐いた。



零は、時たまこうして千馗の布団に潜り込んでいる時がある。
大抵は千馗の胴体に腕を回し、射干玉の黒髪に顔を埋めて寝入っているのだ。
割と気配には敏い千馗でも、零の一連の行動にはなかなか気付けないため、起きて度肝を抜かされるのも少なくはない。


理由を問えば、「きみに一番に起床の言葉を交わしたいとおもった」等と真顔で言われてしまった。


……どう返したものか悩み、結局訂正は出来ていないのが現状だ。



「眠れない、のか?」


やはり返答に窮していた千馗の髪を、零はゆっくりと梳いていく。
その瞳には千馗を案じる色が滲んでおり、それを認めた千馗はこっそりと苦笑を漏らした。



「雨音を……聴いていたんだ」
「雨音……」
「そう。こんな風に、夜中に響く雨の音はひどく耳に残る」



口を噤めば、後には静寂を小さく破る雫の音しかしない。



「……七代は、雨がすきなのか?」
「……どうだろう?例えば、どこかに出掛ける予定がある時に雨に降られれば、憂鬱だけど……」



好むか好まざるか。
素直に感じる事を言葉にするならば。



「こんな風に……ぼんやりと、ただ雨の音を聴くのは嫌いではないよ」


微かな笑みと共に言葉を乗せる千馗に、零は一つ瞬きをして頷いた。

「……すき、という感情は難しいものだな」
「そうだな……その時の精神状態や、周りの状況に左右される場合もあるかもしれない」
「そうなのか………千馗」



言葉と共に、伸ばされる零の手。
不思議に思っていたソレは、千馗の無造作に投げ出されていた右手をやんわりと握った。


じわり、と温かさが互いの手を通して侵食していく。



「……雉明?」
「このまま……共に眠っても、いいだろうか?」
「……今更な気がするな、それ」


クツクツ笑う千馗と、それを見つめる零の瞳は、優しい。


「……おやすみ、零」
「ああ……おやすみ、千馗」


微笑みと共に告げ、千馗は再び目を閉じ雨音に耳を傾けた。
零もまた静かに笑うと、千馗に習って目を閉じる。



優しい雨唄と、繋がれたままの手の熱が、ひどく心地よかった。







しじまを解く、優しい子守唄のように