「だー!!動きにきぃ!!ったく何が『男の治療』だ、あのヒゲ親父!!」
「なら大人しくしていればよかろう。今のところお前が二番目に重傷なのだぞ?」
「馬鹿野郎!!右腕の俺が行かなくて誰が10代目をお護りするってんだ!!対戦中何があるか分かんねーんだぞ!!」
「…(今日の対戦のメインは確か山本だったと思うんだが…?)」
深夜近い時間帯、全身を包帯に包んだ獄寺と右腕を固定し首から吊っている了平は静かな街中を急ぎ歩いていた。
獄寺としてはこの状況は不本意極まりないのだが、前日のリング争奪戦で負った傷+キャッバローネの忠臣であるロマーリオによって施された全身治療のため、途中で合流した了平の手を借りざるを得なかったのである。
「つうかテメェのその腕は骨折か?」
「いや…幸い骨に異常はなかった。が、やたらと京子が心配してしまってな…自然とこうなってしまったのだ」
了平の傷もまたリング戦で負ったものだった。
そして了平の妹である京子は成り行きでその場を目撃してしまい、以来兄の様子を伺っては過敏に反応してしまっていた。
そのため了平は敢えて腕を頑丈に固定する事で自分が無茶をする気はないことを妹に示しているのだ。
「というか獄寺、お前が俺を気にかけるとは一体どういった心境の変化だ?」
「誰が芝生頭のことなんざ気にするか!!テメェがそんな格好してやがるもんだから10代目がその心を砕いてらっしゃるんだよ!!あの人の前で土下座して感謝の念を示すぐらいしやがれ!!」
吼えるように吐き出された言葉の内容に了平は納得する。
良くも悪くもこの獄寺隼人の世界の中心はボンゴレ10代目こと沢田綱吉を基準に回っているのだから。
ならばきっと獄寺の言葉は確かに真実なのだろう。
一人納得する了平を尻目に獄寺はなおも不満を漏らす。
「つうかそれを言ったらあのアホ牛もだ!!いつまでも10代目のお顔を曇らせやがって!!おまけに10代目のお母様の手まで煩わせてやがる!!」
「ランボはまだ回復するのは難しいだろう。条件が悪く重なったとは言え、敵の攻撃をモロに受けすぎた…それに獄寺、お前こそ沢田にかけた心労の幅は大きいだろうに」
いささか厳しい了平の言葉に獄寺は舌打ちし、「分かっている」と吐き捨てた。
「…誰であろうが同じだ。山本だろうとあの雲雀であろうと10代目はそいつが戦う事自体に心を砕く…そういう御方だからな」
きつく握られた拳は震えていた。
それが怒りなのか悔しさなのか、了平には分からない。
「…ランボが攻撃を受けている際、俺たちは皆フィールドに入ることに躊躇した」
何時になく静かな了平の声音に獄寺は振り返る。
了平は首に下げられたリングを手に取って見つめていた。
「特に俺は最初にこのリングを完成させたからな。…正直、どうするべきか迷った」
顔を上げた意志の宿った瞳が獄寺を射抜く。
「いづれ沢田が継ぐはずのリングの一旦をむざむざ敵に渡すような真似をしていいものか…とな」
了平の目には疑念も惑いも存在していなかった。
「…笹川」
「…沢田は一般人である俺や山本、雲雀が戦うことを特に厭っていたが…雲雀はもちろん、俺や山本も戻ることは出来まい。…守護者になるとは、そういう事なのであろう?元より今更戻る気もないしな!!」
最期にわざと張り上げられた声に獄寺は密かに嘆息し、その顔を睨みつける。
「10代目は望まねぇぞ」
「承知している。だからこそ、山本には今日の対戦を是が非でも勝ってもらわねばいかん。…例え無傷で済まなくとも」
恐らく、誰もが無傷での勝利はないであろうことを二人は予感している。
その事に彼らにとって大切な存在である少年が心を痛めるであろう事も。
それでも――――これだけは譲れそうにないのだ。
「シャクだが俺も言っておく」
嫌そうに顔を歪めた後、獄寺は睨むように了平に向き直った。
「10代目に仰っていただいた事だからな…少なくとも簡単にテメェの命を捨てるような真似は二度としねぇ。…だがな、」
一旦言葉を切り、己に誓うように獄寺は告げた。
「万が一…10代目の身に『もしも』の事が起こったなら…俺は迷うことなくこの命を賭ける」
吐き出された言葉には以前のような危うさはなかった。
代わりに宿っていたのは絶対の矜持。
それを分かっていながらも、了平は敢えて口に出した。
「それこそ…沢田は許さんぞ」
「知ってる…その事で散々10代目にはご心配をお掛けしたからな。…だとしても、あの人が傷つけられるのだけは我慢できねぇーんだよ…!!!!」
虚空を挑むかのように睨み据える獄寺の瞳には嵐の守護者に相応しい激情が伺えた。
その視線の先にいるのが誰であるか、了平は理解している。
(できる事ならば…守護者のみで決着を付けたいものだな)
それは、限りなく不可能に近い望みなのかもしれないが。
それでも彼の少年が傷つけられる事を厭うのは己とて同じだから。
「…やはり山本には勝ってもらわねばな」
「…ケッ」
願うのは、彼の少年の平穏と笑顔。
そのためになら―――守護者は全てを賭けるのだ。