棺の蓋を開ける音が響いた瞬間、全ての色が失われたような気がした。
嵐の青年は青ざめ、目を見開いた。
雨の青年は固く目を閉じ、震えた。
雷の少年は膝を抱えて嗚咽を漏らした。
雲の青年はひたすら背を向け、その拳をきつく握り締めていた。
霧の少女は両手で顔を覆い、もう一人の霧の青年は痛いほど沈黙していた。
そして晴れの青年はただただ見つめていた。
大空だった青年を。
生前とまったく変わりない微笑みを残す亡骸を。
「―――――――お兄さん?」
記憶しているものよりも若干高い声。
しかし確かに知っている声音に振り返れば、眼前に居たのは懐かしい姿。
「沢田か。どうした?こんな所で」
「えと…少し休憩しようと思って…。あの、お兄さんはどうしてここに?」
「うむ。俺も少し風に当たろうと思ってな」
二人が居るのはボンゴレの地下基地の入り口であるハッチの手前だった。
不用意に外に出る事は出来ないが、外から漏れ出す風が修行で火照った身体を冷やしてくれる。
ほう、と息を吐くと知らず視線を感じて綱吉は顔を上げる。
「お兄さん…?」
自分にとっては10年後に当たる笹川了平がこちらを真っ直ぐ見つめていた。
その瞳がひどく透明でいて、綱吉は内心首を傾げる。
「あの…どうかしましたか…?」
「いや、」
ふと視線を外し、しかし再び了平は綱吉を見る。
綱吉もその視線を受け止める。
琥珀色の瞳が了平を見上げている。
その目線の低さに軽く嘆息した。
(小さい…な)
既に成人した自分と違い、目の前に居る綱吉は未だ中学生なのだからそれが当たり前なのは分かっている。
それでも――――――
(小さかった、のだな…)
その幼い身体に大いなる可能性を秘めているのを知っている。
彼は、誰かを護りまた同時に自分自身を護るだけの力を持っている。
だからこそ――――わざわざ彼を過去から呼び寄せざるを得なかった今の状況を歯がゆく思った。
「…わっ?!!」
突然伸ばされた大きな手に綱吉は素っ頓狂な声を上げた。
それに構わず了平は綱吉のふわふわした髪をゆっくり撫でる。
「ちょ、何なんですか一体!!」
「うむ!極限に触り心地が良いな!」
「いや、意味分かんないですから!!」
「もー」と困ったように零しながらも綱吉は笑っていた。
記憶にあるものと、寸分違わず。
『了平さん』
声が、聞こえる。
目の前の幼い彼より、幾分か落ち着いた優しい声音が。
「…っ、お兄、さん…?」
「すまない、沢田」
覚えている。
死してなおこちらを気遣うかのように微笑んでいた『彼』を。
目の前に居る彼も、記憶の中に今も息づく『彼』も確かに同じ「沢田綱吉」なのだと。
「少し…こうさせてくれ」
華奢な大空の少年の身体を腕の中に閉じ込めながら、未来の晴れの守護者は固く目を閉じた。