例えば。
あの時、目の前で消えたのがこいつ以外だったら、俺はあそこまで取り乱しただろうか。
おそらく、心配はしただろう。 だが、あれほど心を乱し続けていたかは判らない。 「………壇?」 名前を呼ばれてハッとする。
すぐ近くに綺麗な黒い瞳があって、少し見惚れてしまった。 「どうした?ボーッとするなんて珍しい」
「あ〜……ちっとばかし考え事してただけだ」
「そうか……今の時期、身体を冷やすとやっかいだから屋上では程々にな」 そういえば、いつものように屋上でこいつと二人、昼を取っていたのだったか。 俺とは別の理由でこいつは屋上を好む。
ここから見える街並みを、時に高く蒼い空を。
形容し難い表情で見つめているのだ。 その事に気付けたのは、俺がこいつを見ているからだ。
誰かと連み、しかも相手の表情をつぶさに見ているなど、以前の俺だったらまず有り得ない。 「まあ……要はこいつだからだな」
「ん?何か言ったか?」
「いや、こっちの話だ。それより千馗、今日はどうすんだ」
「……そうだな。いくつか依頼を受けているから、今日はそれに勤しむ」
「なら、俺も連れてけ」
「了解。暴れるのも程々にな」
「……それだけじゃねぇよ」 要は、俺が千馗の傍に居る事を望んでる……それだけの話だ。 ふと考えたこと、君へ