己の力を誇示するための一石。
偶々組み合わさったクラスメイトの一人。
偶然見かけた逸材。
群れる草食動物の一人。
主の目的のために必要な人。


















たぶん、切欠はその程度。
日々流れていく日常の中の一旦。
偶々道が重なっただけ。



















その事実に、今は多大なる感謝をしている。


























「よー、獄寺。首尾はどうだ?」
「うっせぇよ野球馬鹿!気が散る…こっちは問題なさそうだな…」




深夜、静寂が辺りを支配している廃墟の中。
日本刀を肩に引っさげた黒髪の少年とダイナマイト片手にモニター付の機械を黙々と操る銀髪の少年が二人いた。
黒髪の少年が話しかけても銀髪の少年は怒鳴り返すのみ。
しかし手元のキーは一寸の狂いもなく正常な画面をモニターに叩き出す。



「おい、山本」
「あー、大丈夫。言われてた所は全部片付けたぜ」



爽やかな笑みと共に黒髪の少年――山本が横に払った日本刀から血糊が飛ぶ。
それを見た少年――獄寺は鼻を鳴らし再びモニターに向き合う。
手馴れた手付きでキーを操作され、画面越しに新たな情報が加えられていく。


「後は笹川先輩とクロームか?」
「いや、そっちならもう…」

「終わったぞ、獄寺」



ふいに聞こえた声に獄寺と山本は顔を上げる。
二人の視線の先、暗がりの路地から姿を見せたのは両手にバンテージを巻いた少年と特徴的な髪型をしながら三又槍を握った少女。


「お疲れっす、笹川先輩。クロームも終わったのか?」
「うん。もう残ってないよ」


少女――クロームの返答に獄寺は再びキーを動かす。
それを見た少年――了平は思い出したように告げた。


「そう言えば…先ほど雲雀らしき人影を見たぞ」
「え、アイツ召集された時、いたっけか?」
「大方自分で勝手に嗅ぎ付けたんだろうよ…って事は、アイツもう奥にいやがるな…チッ」


舌打ちと共にキーを操作すれば元々映されていた画面が消え、すぐさま別の画面に切り替わる。
映し出されたモニター内では忙しなく動いている赤いポイントが次々と消されていた。


「雲雀のヤツ、何時になくはりきっておるな」
「つか、雲雀にも発信機渡してたのか?しかも敵の位置まで丸分かりだし…」
「守護者には前に全員渡したっつったろーが!!…まぁ、アイツが今まで所持してるとは思わなかったけどな。それと敵の位置は予めリボーンさんが仕掛けた監視カメラからだ」
「あ〜…小僧ならその辺は抜かりねぇかぁ」
「…あ、もう最深部に着いた」


クロームの言葉に残りの三人も改めてモニターを注視する。
紫に点滅するポインタが大きく開けた通路の奥に吸い込まれるそうにして消えていった。


「…で、どうすんだ?」
「…まぁ、雲雀なら問題あるまい」
「じゃあ、このまま待機?」


他の面々が顔を見合わせる中、獄寺は盛大に舌打ちした。







「雲雀のヤロウ…一人でメインディッシュに飛びつきやがった」
































――――何故、何故こんな事になった…?!!!!


大柄の体を大仰に震わせながら、年嵩の男は周りにいた部下たちをいとも簡単に打ち倒した少年から目を逸らせないでいた。
そんな男を無感動な目で見下ろしながら、少年――雲雀は握ったトンファーにこびり付いていた血糊を勢いよく払った。


「君がこの群れの親玉?」


声音は疑惑よりも確認の意味合いの方が強かった。


「ここまで大掛かりな群れをこの並盛に引き寄せたのにはいっそ感服だね。おかげで早々にここいらの取り締まりを強化する事になりそうだよ。…まぁ、噛み殺しがいのない腑抜けばっかりみたいだけれど」


あくまで雲雀の顔に浮かぶのは捕食者の獰猛な笑み。
それは全てを蹂躙出来得る強者の笑みだった。
その事に気づきながら男は未だ震える身体を鞭打って口を開く。


「き…貴様、ボンゴレの手の者か?!!…っまさかあの10代目候補の…!!」
「勘違いするな」



瞬間、男の喉下にトンファーが突きつけられる。




「僕は群れるのが嫌いだ。だからこそ君をわざわざ僕が噛み殺すのは…赤ん坊とあの草食動物に貸しを作るためだよ」




瞬きすら許さないほどの凄絶な笑み。
その底知れない圧力に憐れな獲物は己の末路を悟った。
































「よー、雲雀!!お疲れさん!!」
「ちょっと、何、僕の目の前で群れてるわけ?噛み殺すよ」
「だったらわざわざ来んじゃねぇー!!…終わったんだろうな」
「誰に言ってるのさ」
「…ふん。よし、最終段階に移行だ」
「ならば残るはこの場からの撤退だな!」
「まだ早ぇーんだよ、この芝生頭!!全部セットし終えるまで待ちやがれ!!」




「…あ」




喧騒の中、ぽつりと零れた呟きに何事かと皆が振り返る。


「どした、クローム?」
「残党でもいたか」
「違う…ボスが…ボスが目を覚ましたって、骸さまが…」


表情が乏しいクロームが見せる安堵の表情に全員が目を見開き、次いで息を大きく吐き出した。


「処置は、上手くいったのだな」
「そか…ツナ、目を覚ましたのか」


了平と山本も今まで張り詰めていた緊張の糸を僅かに解いた。
その顔にあるのはどれも心からの安堵。
雲雀は”骸”の名に眉間の皺を深めながらも、何も言わなかった。
変わりのように獄寺に向けるのはあからさまな催促。


「ちょっと、まだかかるわけ?」
「うるせーよ、もう少しだ…よし、セッティング完了…!てめーら!!ずらかるぞ!!」


怒鳴り返す獄寺も目に見えてキーを叩くスピードが上がった。
そして仕上げのエンターキーが押されたと同時に素早く機械を片付けて立ち上がる。
それを見た全員が一切の惑いなくその場を後にした。
そして彼らの姿が完全に闇に溶けた直後。
ある一つの廃墟であった建物が巻き起こる爆音と地響きと共に完全にその役目を終えた。
































「目が覚めたか、ダメツナ」
「………リボーン、……あの子は?」
「かすり傷一つねぇぞ」
「そう……良かった…」
「良いわけあるか、このダメツナが。一般人護ってテメーが死に掛けてちゃ世話ねぇぞ。しかも大勢の人目が在る中で撃たれやがって」
「う……あのさ、皆は…?」


目が覚めたと同時に吐き出される辛辣な説教に冷や汗を掻きつつ、綱吉は己の家庭教師に最も気になる事を尋ねた。
小さな黒衣のヒットマンはそんな生徒の様子に肩を竦めながらも答えてやる。




「たった今、獄寺から連絡が入った。お前を狙ったファミリーは漏れなく守護者総出で殲滅されたぞ」




放たれた言葉に綱吉の目が点になる。

「え……殲滅、っえええぇぇぇぇぇぇ!????………えーと、総出ってまさか…」

「敵ファミリーのアジトにされてた廃ビル群は獄寺が自慢の爆薬で徹底破壊。ファミリー構成員は全て山本、了平、クロームが排除…鼠一匹逃がしてないそうだ。それから首謀者の幹部であった男は雲雀が始末したそうだぞ」

「ああああああああぁぁぁぁぁぁ………獄寺くんきっと在りとあらゆる所からダイナマイト仕入れたよね!!さすが人間爆撃機!!山本や了平さんはノリノリで敵さんぶっ飛ばしただろうし、クロームも意外と容赦ないからなぁ…てゆうかこの三人の場合、深く考えるまでもなく実行に移してそうな所が怖い…。てか雲雀さん!!なんで雲雀さんが出張ってんの?!!…あ、いや、群れてたからか…いやいやいやそれにしたって何でわざわざあの人が出張ってくるかなぁ……………いや、嬉々として噛み殺すか…」




悶々としながら頭を抱え込む綱吉を尻目に、リボーンはどこからともなく取り出したエスプレッソを優雅に飲む。
そして、その敵ファミリーを一切の慈悲もなく叩き潰した面々が今まさにこの病室に向かっている事を、リボーンは敢えて教えなかった。




「敵ファミリーも、馬鹿な事をしたと今頃は地獄の底で悔いているだろうよ」



そう、綱吉が一般人を庇って撃たれたその時、まさに守護者たちもその現場に遭遇していたのだ。
間抜けな襲撃者たちはまさに己の手でパンドラの箱を開けてしまった。



守護者の目の前で彼らの要たる大空を傷つけた。
それが何を意味するのか……未だボンゴレの動向を伺っているその他大勢の敵対ファミリーたちにも骨身に染みて分かったことだろう。



「?リボーン、さっき何か言った?」
「世の中には絶対に手を触れちゃなんねぇもんもあるって言ったんだぞ」



ニヤリと一人愉快そうに笑う家庭教師に綱吉は不思議そうに首を傾げていた。












対不可侵




それは禁忌の箱に触れるのも同義である事を